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易武古樹青餅2010年 その36.

製造 : 2010年4月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県易武山麻黒村大漆樹古茶樹
茶廠 : 農家+易武山の工房
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 京都 密封
茶水 : 京都の地下水
茶器 : 銅のヤカン+チェコ土の茶壺+炭火
火鉢
菊炭

お茶の感想:
日本の炭をつかってみる。
京都は茶道の本拠地だけあって、炭・火鉢・火消し壺・火箸、などが近所にあって、半日のうちに揃った。
ところがここからが長い。
炭の火がなかなか起こらない。中国の胡桃の炭とは勝手が違う。
また、炭炉ではなく火鉢をつかう点でも違う。
火鉢の扱いが下手くそなので、部屋じゅう白い灰にまみれた。
たぶん、中国茶を淹れることに関しては炭炉のほうが機能的だが、もうちょっと勉強してみる。
安全第一にしないと。
さてこのお茶。
【易武古樹青餅2010年】
易武古樹青餅2010年京都壺熟成
易武古樹青餅2010年京都壺熟成
茶葉は保存環境によって熟成変化が異なるので、その違いをみる。
個人所有のこの一枚は陶器の梅干し壺のような蓋のある器に入れて書斎に保存している。
お茶淹れ
お茶淹れ
いつもの調子でサッと淹れたら、1煎め・2煎めがかなり薄くなった。
10日ほど前に飲んだ西双版納に置いているのは2煎めには濃い味が出たはずだ。
こういうことはよくある。
壺に入れて長い間放置していたのは茶葉が眠っているので、目を覚まさなければならない。
「醒茶」と呼ばれるのだが、いくつか手がある。
壺から出して、包み紙のまま乾燥した暗いところに1日置いて新鮮な空気を呼吸させる。
晒干(天日干し)でちょっと温度を上げて、空気との温度差をつけて内側の水分を吐き出させる。
もうちょっと急ぐなら茶葉を炙ってもよいし、それが面倒なら洗茶を念入りにしてもよいし。洗茶が嫌なら、茶器をしっかり温めて、高温の湯で1煎めの抽出時間を長くする。
茶湯の色
茶葉のコンディションによって手を使い分ける。
壺の中の淀んだ空気に慣れた茶葉は、ミクロの繊維に入り込んでいる空気と水分とを吐き出しにくい状態になっている・・・のかもしれない。いきなり熱い湯をかけても浸透しないのだ。
最近始めた醒茶の方法で、湯の温度で茶葉を温めるという手がある。
茶葉の目を覚ます
これをチェコの陶芸作家のマルちゃんに伝えたら、こんなものが届いた。
茶葉を温める器
茶葉を温める器
醒茶器とでも呼ぶかな。
器の表面の温度で茶葉を焦がしたくない。できるだけ内側の空気の温度で茶葉をふんわり温めたい。生茶の”生”の風味を活かしたい。
そうすると湯の沸く温度でじっくり温めるのがよいのだが、あいにく銅のヤカンの口にはサイズが合わないので、火鉢の縁に置いて、炭火の照射熱で温めた。
じっくり20分くらい。器の外側を手で触れてもギリギリ火傷しないくらいの温度で。
火鉢の縁に置く
茶葉を温める
蓋に水滴
蓋がドーム型になっているので、器を底から温めると蓋の裏側に水滴がつく。
空気中の水は暖かいほうから冷たいほうへ逃げる性質があるので、器の内側でいちばん冷たい蓋の裏に集まる。
たった8gほどの茶葉でもこれだけの水分が入っている。
茶壺にあらかじめ茶葉を入れて、茶壺ごと温める方法(上の写真でしている方法)にはひとつ問題がある。茶壺は普段からお茶を淹れるので、乾いても水分が完全に抜けないから、その水分で茶葉を蒸してしまうのだ。なので専用器があるほうがよい。
炭火の照射熱はけっこう熱くて温度調整が難しいので、やはり鉄瓶の蓋に据えたほうがよいだろうな。
もうひとつ鉄瓶買うことになるのかな。
目が覚めた易武古樹青餅2010年

ひとりごと:
天才と秀才。
日本人は秀才のほうが好き?
努力して勝ち得た成功が尊くて、ポン!と神が与えたものは不公平だから認めたくない?
はじめて出会う日本人に、「雲南でお茶つくる仕事しています。」と言うと、どうも努力とか経験のところを質問される。
「経験はありません。お茶の畑も持っていません。」
美味しいお茶が手に入るかどうかは運。自然と星のめぐりが勝手に決めることなのだけれど、ま、そうは言いにくい。
銘茶は美人。

易武古樹青餅2010年 その35.

製造 : 2010年4月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県易武山麻黒村大漆樹古茶樹
茶廠 : 農家+易武山の工房
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 西双版納 密封
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 鉄瓶+チェコ土の茶壺+炭火
茶葉を焙煎

お茶の感想:
このお茶を焙煎すると烏龍茶っぽくなる。
【易武古樹青餅2010年】
11月の上海の勉強会では、その場で焙煎して味と体感を確かめた。
焙煎といっても3時間半くらい。小さな炭炉の炭が燃え尽きるまでの3時間半。長時間を何度も繰り返す本格ではないが、それでも十分に茶葉の性質が変わるのを実感できる。
ほんの3煎分ほどの少ない茶葉で行うので、小売店用に販売されている竹籠と電熱を組み合わせた焙煎機では大きすぎる。
数日試行錯誤してこの方法を見つけた。
易武古樹青餅2010年12g
茶葉を紙で包む
炭炉と炭火
陶器の壺で焙煎する
焙煎の壺に蓋をする
紙に包んだ茶葉を壺の口に差し込んで底に付かないよう浮かせるのがコツ。
はじめの40分ほどは蓋を開けて水分を逃がす。茶葉の中にある水分と壺の中の空気中の水分とが冷たいところを求めて逃げるが、蓋をしたままだと茶葉の中に入り込むかもしれない。さらにその水分に熱が加わると茶葉に望ましくない変化をもたらす。水気があるのとないのとでは変化が異なる。
別の壺で焙煎テスト
蓋に水滴
丁寧に焙煎しようとしたら水抜きに時間をかけるしかない。
量産のお茶は時間をケチったのが多くて、それが濁った風味となって現れている。
今回の3時間半という短時間の焙煎では水がしっかり抜けない可能性もあるので、あらかじめ西双版納で1日かけて晒干・涼干して、茶葉をカラカラにしておいた。
晒干・涼干するだけでもお茶の香りが立って新鮮さが蘇る。天気のよいカラッとした日に餅茶を崩して、崩した分だけ晒干・涼干して密封して保存すると、毎日新鮮な風味でお茶が飲める。
火加減については何度も失敗した。
焦げて失敗
このタイプの炭炉は火加減がうまく調整できない。
炭炉の器の大きさと炭の量と炭の燃え方と通風口の開け閉めと、何度も試して慣れが必要になる。
かといって調整が容易な電気コンロは火の性質が異なるだろうし使いたくない。
炭炉についてもうちょっと研究して、ゆくゆくは自分専用のをつくることになりそうだ。
炭作りまで手を出さないで済むようにしたい。
焙煎前と焙煎後
焙煎前と焙煎後
焙煎前と焙煎後
左: 易武古樹青餅2010年 焙煎前
右: 易武古樹青餅2010年 焙煎後
ま、思っていたとおりになったと思う。
今後の勉強会でまた試飲できるようにしたい。
なぜ焙煎を試しているかというと、長い長い年月をかけてお茶づくりが成熟してゆく過程で、”焙煎”という工程がなぜ取り入れられたのか?そこが知りたいからだ。遠い昔に人が焙煎という技術と出会ったのと同じ道を歩んでみたい。
プーアール茶を専門にしている自分が焙煎に興味を持たのは、風味を引き立てるためじゃない。それ以外の効果にむしろ興味がある。とくに体感の変化。それをもたらす茶葉の質の変化に注目している。
現在の生茶のプーアール茶は、製品としての完成度の低いお茶だと感じている。歴史をみても、こんなに中途半端なお茶を人々は飲んでいなかったはずだ。
日本語で言うと漢方、中国語で言うと中医学の思想が昔のお茶にはもっと色濃くあって、その視点からするとお茶としての本領が発揮できていない。
カンタンに言えば、生茶のプーアール茶は長期熟成や焙煎の二次加工が必要な半完成品のお茶。
その二次加工を、いつ・どこで・誰がやるのか?どんな道具が必要なのか?現代の社会環境やお茶を飲む人の生活に合わせて、具体的な解決策を提案できるようにしたい。

ひとりごと:
日本酒もそうかもな。
百薬の長の酒なんて、今の日本酒では考えられない。

版納古樹熟餅2010年 その37.

製造 : 2010年7月
茶葉 : 雲南省西双版納州巴達山曼邁寨+章朗寨古茶樹2009年秋茶
茶廠 : 農家+孟海県の茶廠
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 乾倉
茶水 : 西双版納のミネラウォーター
茶器 : 鉄瓶+小さめの蓋碗
西双版納

お茶の感想:
西双版納に帰ってきた。
チェンマイから300キロほど北に移動するだけなのに気候は違う。西双版納の景洪市は空気がとても軽く感じる。
青い空を見ていたら縦に長い長方形の白い板みたいなものが雲の流れと反対の方向へ飛んでいったのだけれど、ま、そんな話はしないほうがよいか・・・。UFOは信じないけれど見たことはあると言うことにしよ。
今年の秋もお茶づくりは様子見になると思うが、それでもやりたいことはいっぱいある。
炭炉と鉄瓶
炭の火
通販サイトのタオバオで広東省潮州の炭炉を買ってみた。
日本の七輪に似ている。潮州には紅泥と呼ぶ土があって、これが茶壺にもよいし炭炉にもよいらしい。
炭の火を探ってみる。
火は、お茶を淹れるときも大事だし、お茶をつくるときも大事だし、いずれは勉強することになる。
前回の勉強会「煎じるお茶」で、茶葉を煮るのにアルコールランプをつかったが、炭の火だったらまた違う風味や体感が得られたかもしれないと考えている。熱には響き方の違いがあることを、お茶淹れの茶壺の素材や形状の違いについて注目していたけれど、熱の響きという表現をするならその震源となる火の違いにこそ注目するべきだろう。
炭炉
最近よく使っている鉄瓶で湯を沸かすのは、ガスの弱火や電気コンロの200Wで20分ちょっと時間をかけているが、たとえ同じ20分で沸騰させても炭の火にはまた違う響きがあり、湯の質は異なるはずだ。
炭は核桃炭。クルミの炭。この他にも龍眼やオリーブの炭がある。いずれもしっかり炭化していて穏やかに燃えるタイプ。
クルミの炭
炭は点火させるのが容易でない。
穴がいっぱい空いた鉄鍋に炭を入れてガスコンロにかけて火をつけるが、なかなか燃えない。ガスやアルコールは火花が散るだけでパッと燃え上がるのだから大違いだ。例えば乾燥した木材は炎が移るのは早いが、炭はそうじゃない。炎はほとんど出ない。試しにアルコールを少し含ませた炭に火をつけてみたら、アルコールの炎がメラメラ15秒ほどで燃え尽きた時点で炭はなにごともなかったのように元の黒い色に戻った。赤くならない。炭には熱量が要るらしいのだ。ひとつの炭では燃えられない。いくつも集まって熱がこもってあるところに達してやっと赤い色が見えてくる。時間がかかる。
アルコールランプ
炭の火
ガスやアルコールの火は熱の芯がどこにあるのか見てすぐにわかる。ところが炭の火の熱はどこに芯があるのかよくわからない。炭全体が熱くなって、炭炉も熱くなって、鉄瓶の全体が熱くなって、どこからともなく湯が沸くような感じ。その点、ガスやアルコールの火には芯があり、鉄瓶の底の中心あたりから湯が沸くのが見える。
炭は熱が一点に集中しないから、その効果で熱の流れがとても穏やかになる。
熱の流れ。この勢いを利用するケースもあるのだろう。
例えば、薪の火で茶葉を炒るのや陶器を焼くのは、熱の流れの効果を利用しているかもしれない。
チェコのマルちゃんの窯
薪の火
チェコ土の茶杯
いくつかのお茶を試したいと思うが、まずは熟茶。
【版納古樹熟餅2010年】
版納古樹熟餅2010年
湯の熱が茶葉の内部にグッと入って成分を抽出するほどに甘くなる熟茶。
湯の温度が高いだけではダメで、響きの長いのが良い。長い波長の熱が伝わると水質がトロンとしてきて余計に甘く感じる。
鉄瓶
鉄瓶の同じカタチのが2つあるので同時に沸かして、ガスコンロ+アルコールランプのと炭炉のとを比べてみた。
炭の火は一定じゃない。点火してからだんだん火力が強くなる。対してガス+アルコールは一定。沸騰までの時間を合わせるためにアルコールの小さな火でじわじわ温めてからガスで仕上げることにした。
小さめの蓋碗。茶葉は3.6g。
蓋碗と熟茶
炭の火とアルコールランプの水
左: 炭火の湯
右: アルコールランプの湯
水の味にすでにその差が現れていた。
炭火はしっとり甘い。ガスコンロ+アルコールランプはピリピリ辛い。
炭火のお茶とガスコンロのお茶
左: 炭火のお茶
右: アルコールランプのお茶
お茶になってもそれは同じ。同じ茶葉だからお茶の味は同じではずだが口感が違うと味も違うように感じる。茶湯の色の差くらい違う。
炭火のはフワッと舌に触った瞬間にほどける。ふくらむ。ひろがる。喜んでいるような味。それに比べるとアルコールランプのは怒っているような味。
試しに4煎めから左右を入れ替えてみた。
アルコールランプと炭火のお茶の味比べ
左: アルコールランプのお茶
右: 炭火のお茶
左右を入れ替えてから1煎めで味も入れ替わった。2煎めで茶湯の色が近付いて3煎目には同じになった。煎がすすんでいるせいか色が逆点することはなかった。
炭火とアルコールランプ
沸騰する具合を見てなるべく同じ温度になるように調整するべく炭を足したり引いたりしたが、それでも炭火の湯のほうが高い温度を長く保つような性質になる。
やはり熱の響き方だろう。
念のため温度計で鉄瓶の湯の温度を測ったらアルコールランプのほうが1度高いことになった。この正確な計測は難しいから数値はあてにならない。
炭火のほうが美味しいお茶になる。はっきりしている。1回分の炭のコストは8元ほど。かなり割高になるけれど、良い茶葉と良い道具を揃えたら炭を使わなきゃ損だよな。
次は生茶で試してみようと思う。

ひとりごと:
鉄瓶を欲しがっていた西双版納の茶商友達が遊びに来て、パッと目があったチェコ土の茶壺。
チェコ土の茶壺
チェコ土の茶壺
売るのは惜しいが、こういうのは縁。愛せる人の手に渡るものなのだ。
雲南の陶器に詳しい人で土質が気になると言っていたから、いろんなお茶を試してくれるだろう。

益木堂那カ古樹純料茶2010年 その5.

製造 : 2010年3月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県孟宗山那カ寨古茶樹小葉種
茶廠 : 農家+益木堂
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 上海密封
茶水 : 京都の地下水 
茶器 : チェコ土の茶壺+鉄瓶
益木堂那カ古樹純料茶10年
那カ古樹純料茶10年
益木堂那カ古樹純料茶10年

お茶の感想:
上海の友人の店からもどってきたサンプルのひとつ。
以前にも紹介している。
+【益木堂那カ古樹純料茶2010年 その1.】
古茶樹小葉種。
小葉種の茶葉は長期保存してもあまり美味しくならない。
最近仲間うちでそんな意見が出ているが、どうだろ。
このお茶は2010年の出来たてのときは評価が高くて、毛茶(原料の茶葉)を仕入れたメーカーの担当者は会うたびそれを自慢していたけれど・・・。
泡茶
泡茶2
実際にそうかもしれない。それほど美味しいと思えない。
苦味が粘着質でスッキリしない。老班章を飲んだ後だから余計に比べてしまう。
まだ熟成3年めの2013年くらいまではよかったと思うが・・・。
飲んでひとくちでパッと花開く陽気な表現が小葉種のよいところだが、熟成でそれが落ち着くとつまらなくなってしまう。神童も二十歳過ぎればただの人って感じ。
この感じ、当店のオリジナルのお茶にもひとつある。
+【巴達古樹青餅2010年】
巴達山曼邁寨の古茶樹は中葉種。小葉種よりもちょっと大きく育つ茶葉だが、味の表現といい熟成のすすみ方といい、よく似ている。
葉底1
葉底2
茶葉が小さいのでじっくり蒸らすのはよくない。
白磁の蓋碗でサッと湯を切る淹れ方のほうが繊細な風味が引き出せたかもしれないが、それにしても小葉種は新しいうちが良いし、餅茶にしないで散茶のままのほうが良い。
体感はというと、やはり熟成させたほうが穏やかになっている。小葉種の茶酔いはパッとまわってサッと引く。軽やかで朝に飲みたいお茶。

ひとりごと:
蒸し暑い日がつづくせいか、冬の寒い寒いチェコのマルちゃんの工房で深夜に毎日見ていたお茶の番組シリーズ『一条 叶放訪茶』を思い出した。
見ていたら、そこから『茶有喝过才能说』につながった。
なかなかいい。
老茶の店の「03」「07」「12」「17」「20」がいい。薬膳の「13」もいい。かつて台湾にあった磚茶100モノを飲む「15」もなかなか。有機栽培のお茶を比べる「21」は希望の光。茯磚茶の「24」「25」はシブい。
山の中に竹の茶室をつくった「02」のだるまさんみたいな主人は一度お会いしたことがあって、そのときの印象そのまま。
それ以外のはちょっと苦手なのがあった。
なにが苦手なのか?と考えてみたら、「私キレイでしょ」を見せ合う女子趣味なお茶が苦手。女子が集まって「その服いいね!」をほめ合う必要性が、男子には理解できないのだ。女子趣味に意見はないが、男子までもが茶人服で襟巻きしているのはキモい。女性のチカラが強くなっている時代の現れとして歓迎するべきなのかな。
その点、老茶専門店の時代遅れな豹柄のシャツで我が道をゆくおっさん店主はカッコイイ。ますます希少で、もはやその人自身が老茶である。
うちは男子のお茶の店でありたいから、自分も老茶になるぞ。

老班章古樹純料茶10年 その2.

製造 : 2010年5月
茶葉 : 雲南省西双版納孟海県老班章古茶樹 老班章茶農協会認定
茶廠 : 孟海鴻福茶廠
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 上海 密封
茶水 : 京都の地下水 
茶器 : チェコ土の茶壺+鉄瓶
チェコ土の茶壺

お茶の感想:
上海の友人の店に預けていたサンプルの餅茶が数枚戻ってきた。
3種ほどあって、しばらく飲んでいないお茶ばかりなので確かめておく。
まずは老班章の2010年。
『老班章古樹純料茶10年』
老班章純料2010年
西双版納にいると試飲する機会の多い老班章のお茶。
この茶山の原料の茶葉価格が年々高騰してゆくのが春のニュースになって、中国全土にブランドが浸透している。
自分は好みではないから老班章の山には2008年から行っていないが、現地の茶友らはちょくちょく行っては「これはどうだろ?」と意見を求めてサンプルを持ってくる。1ヶ月に1つは老班章を試飲する機会がある。
ニセモノもホンモノも含めて美味しいと思えるのは1年に1つ出会えばよいほう。高騰した価格に見合う美味しさに出会うことはめったとない。
老班章にはひとつ気がかりなことがある。
茶葉の価格が高騰したため新老班章と称する茶地の開拓が周囲に広がった。2008年にはすでに周囲の山の広大な森林の開拓がはじまっていた。自然環境のバランスが変化しているはずだ。
老班章純料2010年
久しぶりにこれを飲んでみると、あんがい上質だった。
過去の記事には「舌にへばりつく苦味」と書いているが、今思うと適切じゃない。「余韻の長い苦味」と言うべきだろう。
とにかく苦味が美しい。枯れて清い感じがする。
透明感に深みがある。
余韻の広がりに風景が見える。
なんだか抽象的だが、美味しさが上にゆくほど抽象的な表現になるものなのだ。逆に、具体的な表現をさせるお茶はたいしたことなかったりする・・・かも。
体感はというと、暑い日に涼しい。
豊富なミネラルのせいなのか足の指に血がめぐる。毛細血管が開いて軽く汗をかくがのぼせるほどの上気はない。穏やかな茶酔いが眠りを誘ってウトウトする。
7年目になる熟成の風味はというと、密封して乾燥状態を保つように保存していたので大きな変化は無いが、無駄なところが落ちてより質素になった気がする。微かに蜜のような甘い香りが加わっている。煎がすすむと吐く息・吸う息にお香の煙のような香りが漂う。この地域の原種の品種特性が現れている。
様々なジャンルの音楽に様々な味わいがあるように、お茶にもそういう違いがある。もしかしたら、老班章の苦味の余韻はこれ独自のジャンルであって、他に代わりが見つからないのかもしれない。
もう一度味わってみたい苦味となって記憶に刻まれる。
老班章純料2010年
ひとつメモしておくと、この茶葉は5月の2番摘み。例年なら春の旬を外しているが、しかし2010年は80年ぶりの干ばつで雨が少なかったので、4月中旬の1番摘みの終わりくらいのコンディション。小さな新芽・若葉にそれが現れている。
茶樹の背が高いほど発芽の時期が遅くなりがちなので、もしかしたら大きな茶樹の1番摘みが混ざっているのかもしれない。
やや遅い春の茶葉は茶気が穏やかで、甘味が控えめになってちょっと痩せたような風味になるけれど、それが清潔感につながって好印象である。老班章だからといってフルパワーのチカラ比べが良いとも限らない。高いお茶だからチカラ自慢したくなるけれど。
早春の水分の少ない茶葉に比べたら水分を多く含む晩春の茶葉は殺青の鉄鍋炒りで焦がす失敗が少なくうまい具合に仕上がっている。熱伝導率のよい水が茶葉に均質な熱を伝えるからだ。このことが風味の透明感につながっている。
製茶の仕上がりを追求するなら、早春の茶葉を求めるのはリスクがあるなと思った。
葉底
葉底。雨の季節に入ったせいで茶葉の繊維がやや硬くなっている。

ひとりごと:
茶葉にはいろんなことが記録されている。
2010年5月の老班章の自然環境も茶樹の健康も。
お茶を淹れるとそのときその場所の環境がパッと蘇る。
この茶葉を手元に資料として残しておくと、これから出会う老班章のと比べられる。その違いから、自然環境と茶樹の健康についてもわかることがあると思う。

版納古樹熟餅2010年 その36.

製造 : 2010年7月
茶葉 : 雲南省西双版納州巴達山曼邁寨+章朗寨古茶樹2009年秋茶
茶廠 : 農家+孟海県の茶廠
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 乾倉
茶水 : 京都の地下水
茶器 : 鉄瓶+チェコ土の茶壺
鉄瓶あられ

お茶の感想:
鉄瓶を探る。
濃く淹れても透明感のある味わい。
高温抽出でありがちなドライな刺激をしっとりと包み込む水質。
いろんなお茶を濃い目に淹れてみよう。
ということで、今日はこのお茶。
【版納古樹熟餅2010年】
版納古樹熟餅2010年
思い切って真っ黒に出してみる。
いつもは7煎くらいまで続けるところを、前倒しにして3煎めで切るつもり。
鉄瓶なら1煎めからフルパワー。3煎で出し切る配分は無理なくできるはず。
鉄瓶独特の熱の響きをつくるには時間を掛けてじっくり湯を沸かしたほうがよい・・・と信じている。
まずガスコンロの弱火で25分ほどかけて水から湯を沸かす。途中からシューン!という音が鳴り出して、底から小さな気泡が湧いて上下に対流する。気泡がだんだん大きくなって蓋のそでから噴く蒸気にチカラがみなぎる。
ガス火
ガス火の熱はまっすぐ上がり鉄瓶の底を突き抜ける。
上への直進力が強すぎる。水に強い刺激を与えるから、写真のように小さくトロトロした火で鉄瓶まで1センチ以上の隙間を空けたほうがよい。コンロの高さ調整ができるよう薄い五徳を敷く手もある。
沸騰するまでの時間、水は鉄から伝わる熱の響きを聞いている。水の粒子がそれを記憶する。
アルコールランプ
アルコールランプの火も親指の先くらい小さめ。
鉄瓶から茶壺に湯を注いでからも水の記憶はすぐに消えない。茶葉にその熱が伝わり抽出される成分にもなにかが響いている。
たぶんそういうことじゃないかなというようなお茶の味。
版納古樹熟餅2010年
版納古樹熟餅2010年
味のように体感にも違いがでてくる。
これだけ真っ黒く抽出してもサッパリしている。熟茶にありがちな暑苦しさはなく、むしろ涼しい。手前味噌ながら茶葉が良いというのもある。
茶酔いはゆったりと長い波で寄せてくる。
静かで落ちついた体感。
お腹の底を温める熱がいつもより力強い。
水が記憶する熱の響きは、おそらく体内にもなんらかのカタチで伝わる。
鉄瓶を傷めたくないので試さないが、強火で短時間で沸騰させたらお茶の体感も変わってくるだろう。いつも使っているステンレスの電気ポットは3分で沸騰するが、その湯でこのお茶を濃く淹れたらもっと辛くて暑い味になるし、体感はもっと衝撃が突然くる感じ。そうすると、昔みたいに炭火で湯を沸かすともっとやさしくなるだろう。
この熱の響きはお茶の成分を身体に”伝えるカタチ”をもっているのではないかと思うが、冷たいお茶では酔えなくなるので、水の記憶と熱とはセットで響いているのだ。
お茶は熱いうちに飲むほうがよい。
冷たいお茶を飲む日本人の習慣は、茶酔いを評価していないことがわかる。飲みものが身体にどう響くかに関心がないのだな。
鉄瓶

ひとりごと:
もしかしたら酒でさえ酔い心地を評価していないかもしれない。
舌先・鼻先の味や香りだけで評価していたら、大事なところを見落としてしまう。
つくっている人が大事なところを見てほしいと思っているお酒が飲みたい。

易武古樹青餅2010年 その34.

製造 : 2010年4月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県易武山麻黒村大漆樹古茶樹
茶廠 : 農家+易武山の工房
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 京都陶器の茶壺
茶水 : 京都の地下水
茶器 : 鉄瓶+チェコ土の茶壺
鉄瓶

お茶の感想:
お茶の良し悪しは酔いの質をみる。
茶酔いの快楽がいちばん価値あるところ。
舌先・鼻先でわかる味や香りはその次で、むしろ没個性でひかえめなほうがよかったりする。
人は快楽に上質を求めると、なぜかストイックになれる。
なにかの本で読んだが、アヘンがそうらしい。アヘン戦争のアヘン。
その効能を最大限に発揮できるよう、喫烟する一日前からなにも食ベない。酒もお茶も飲まない。コップ一杯の水だけでしのぐ。空腹時に酒を飲むと酔いが回るように、空っぽの身体にアヘンが回るとブッ飛べるそうだ。もしも身体に不純物が入っていると飛べなくなる。
たとえ裕福な人でも、美食・美酒をあきらめてアヘンの快楽に生きようとする。だから中毒者はガリガリになってゆく。映画などで貧民が生活苦から逃げるためにアヘンに溺れてガリガリというのは作られたイメージかもしれない。むしろ公務員など要職に就く人がアヘンに侵されるから社会に大きなダメージを与える。大英帝国の狙いはそこだったわけだ。
歴史の本によると、アヘンの喫烟は主に茶楼で行われていた。
交易で栄えた華やかし頃の中国の都市の茶楼は『千と千尋の神隠し』の舞台となる油屋みたいなイメージだろうか。カンフー時代劇でも出てくる木造の豪華な館。個室で寝そべり窓から表通りを見下ろしながら、食・酒・煙草・茶・女・音楽と、あらゆる快楽を嗜む。
タイの仏像
その中のひとつだから、茶酔いは他の快楽に負けられない。
茶葉を選んだり、道具をそろえたり、キレイな水を汲みに走ったり、湯を沸かすのに時間をかけたり、淹れ方を工夫したり、瞑想したり。茶酔いの快楽のためなら手間暇を惜しまない。犠牲をためらわない。
山深い霊気のあるところに育つ茶樹で、樹齢は300年を超えた高い幹のものを選ぶ。采茶や製茶はできるだけ人の手の汚れ(わざとらしさ)から遠ざけなければならない・・・など、現在にも残る価値観は味のためより茶酔いのためだとすると、あまり大げさな話には聞こえない。快楽を求めるストイックにはわざとらしさがない。
お茶は仏教と相性がよくて、禁欲的な生活をするお坊さんが茶を飲むイメージがあるけれど、お坊さんは茶酔いの効能が最大限に発揮されるコンディションを整えているという点で、ストイックな快楽主義者である。身体に不純物が入っている凡人とは違うレベルの酔いを体験しているにちがいない。お経を唱える声がムニャムニャとなにを言っているのかよくわからないのは、茶酔いにラリった状態を表現しているのかもしれない。
さて、長い前フリになったが今日から鉄瓶を試す。
鉄瓶八角
茶葉との相性もあるだろうから、いろいろ試してゆくとなると一年はかかりそうだ。長い旅は望むところだ。もっと遠くへ連れて行ってほしい。
茶壺と同じで使い始めは安定しない。内側の漆塗りや鉄の臭いがあるので、熟茶の茶葉を2回煮て”ならし”をした。それでも安定するには3ヶ月はかかるだろう。
湯はガスコンロの極小の火で24分かかって沸騰させる。それからアルコールランプの小さな火で高温を保つ。「シューン」と小さな音が鳴っているくらいの沸騰。
今日はこのお茶。
【易武古樹青餅2010年】
易武古樹青餅2010年試作品
湯の熱には響きがあるという話を「茶学」でしていたけれど、その理屈からすると鉄瓶の熱はお寺の鐘のようにゴォーーーンと低音で響く。
茶壺に注ぐ湯、茶壺から杯に注ぐ茶。ともに湯気がみなぎって熱量の高さが現れている。生茶は高温で煮やすと苦味・渋味が立ってしまうので、ちょっと心配だけれど思い切ってじっくり濃い目に抽出してみた。
易武古樹青餅2010年
茶湯の色からしても濃い味になったはずだが、口に含んだ瞬間は意外とあっさり。ややトロンとした舌触りながら透明感があり涼しい液体。と思っていたら、ちょっと時間差があって底の方から味わいが湧いてくる。
一煎めにして三煎めくらいの深い味わい。ゆったりと長い波長。チェコ土のマルちゃんの茶壺の波長ともピッタリ合う感じ。
ひとくちめにして「はーーーーーっ!」とため息が出て腹の底から息を吐きる。
香りは素直に出ている。アピールはおとなしめだが、これも長い波長で余韻が続く。
苦味の効き方はおおらか。二煎・三煎とすすめると春尖の辛味がでてくるが、煮えた嫌味はほとんど出ない。
ただ、後の煎が前倒しになる分、煎はつづかなくなる。四煎めで落ちてきた。
茶酔いはゆったりしている。
いきなりパーンと響くようなことなくじわじわ効いてくる。覚醒と眠くなるのとがバランスよく綱引きして、ボーっと窓の外の緑を見た。
7月の緑

ひとりごと:
鉄瓶は重い。
上の写真のは1750g+1000mlの水を入れると2750g。軽めのダンベルになって筋トレできる。
たぶん重さが理由で使わなくなる人が多いだろう。
ひとまわり小さいのも買ってみた。1450g+700mlの水で、それでも2キロはある。
ストイックにならないと快楽の上質は得られないのだ。
鉄瓶小
鉄瓶小

巴達曼邁熟茶2010年 その6.

采茶 : 2010年4月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺

お茶の感想:
12月の通販の臨時営業を延期した。
熟茶づくりに集中する。
次回の営業は来年の2月になる・・・かな。ちょっと自信がない。
ま、誰も困らない。
さて、熟茶。
渥堆発酵の布袋
鏡餅のように円盤を重ねている。
試行錯誤の末に収まってきたカタチ。
大量の渥堆発酵に近づけるために、布でくるんだ茶葉を二段にしている。もっと圧力を加えるために3段にすることもある。圧力があるほど高温になりやすい。
糖化を促したい茶葉を3段の真ん中にサンドイッチする。
渥堆発酵の主役の黒麹菌は酸っぱいクエン酸をつくるが、でんぷんを糖化させる酵素もつくる。
でんぷんを糖化する酵素は、茶葉が水をたっぷり含んで、でんぷん質が糊状になるときに効果を発揮する。糊状になる温度は50度から60度とされるが、渥堆発酵においては堆積した茶葉の中心部でそうなっている。
50度を超える渥堆発酵
しかし、後で調べてみたら黒麹菌のつくる酵素はもうちょっと低温でも糖化できるらしい。ただ、実際にはやはり50度を超える温度のほうがあきらかに糖化が早い。
加水4回目の頃から酸っぱい味がどこかへ消えてなくなる。
よく味わってみると存在するのだけれど、隠れてしまう。
分解されたのか結合されたのか知らないが、舌に酸っぱさを感じさせなくなる。
渥堆発酵の黒く変色した茶葉
加水5回目になると甘さすらも減ってゆく。旨味も減って淡くなる。そしてかすかに苦味が出てくる。
これは酵母の仕業だと思われる。
せっかくつくった糖などの美味しさを構成する成分を酵母が食べてしまう。
このとき水分が多すぎるとアルコールがたくさんつくられる。アルコールは香りの成分をつくるので、少しだけつくられるのがよいが、加減が難しい。
酵母は乳酸菌とセットらしいので、乳酸菌による仕事もなにかあると思うが、そこはまだよく解らない。
ここでちょっと考えてみる。
黒茶にする目的はなんだったのだろう。
緑茶としてすでに完成している茶葉に、わざわざ手間をかけて、時間をかけて、お金もかけて、茶葉の一部を微生物に喰われて重量を減らして、それでも黒茶にするのは、味を良くするためだけではない。
別の目的はなにか?
カフェインなどの刺激を和らげる。
長期保存や長距離の運搬に強い茶葉にする。
栄養価を高める。
そう、味よりももっと具体的というか現実的な目的がある。
黒茶の目的を意識したら、渥堆発酵をどの時点で止めるのか?という答えが出るだろう。
ということで、数日ずっと考えていたが、よくわからないまま、茶葉はどんどん変化を続けている。
熟茶のようになった茶葉
見た目は、すでに一般的な熟茶のようになっている。
小堆発酵の熟茶泡茶1
小堆発酵の熟茶泡茶2
もういいかな。
味はもうじゅうぶん熟茶になっている。
熟茶の泡茶5煎め
5煎め。
煎を重ねるとまだ新鮮な感じの色が出てくる。茶葉の芯まで変化していない。
葉底
葉底もまだ緑っぽさを残している。
しかし、黒麹菌が生きているうちは抗酸化作用が効いて、赤黒く変色させるのは難しいと思う。このまま適度な加水と乾燥を繰り返しても、変色のすすみはゆっくりである。
ここから乾燥させてみる。
茶葉がカラカラになると麹菌や酵母などの微生物は死ぬが、微生物のつくった酵素がまだ生きている。酵素は生物ではないから、酵素の活性(効力)がまだ残っているというのが正しい。
酵素は70度くらいの高温でその活性を失うのが多いので、餅茶に圧延加工をすれば、高温の蒸気で活性を失う酵素もあるだろう。
なので、このまま常温で長期熟成させることにする。
ラオスの竹編みの米びつ
ラオスの竹編みの米びつ
適度な通気を与えたいので、ラオスでつくられている竹編みの米びつを買ってきた。西双版納では雑貨屋さんや路上で売っている。
二重になっている。
ひと籠に5キロ入る。
完成したお茶を日本向けに売るには、長距離輸送のために圧延加工してコンパクトにしたほうがよいだろうが、上海の友人の店なら米びつごと散茶で売ってもよいな。

その他、メモ的に記録しておく。

保温について。
電気カーペットを利用して高温で発酵させるようになって失敗がなくなったが、そのかわり30度くらいの比較的低温で茶葉を長時間湿らせておくのが難しくなった。高温になりすぎて乾きが早い。
低温の調整ができる高性能なのに買い替えた。
これまでは下に1枚敷いていたが、上にも1枚被せて2枚体制にする。
低温設定で上下からじわじわ温められるので、蒸気が一方方向に逃げにくく、茶葉の保湿時間が長くなった。

熟成について。
お茶の味を調整するという黒茶づくりの目的は、長期熟成によって達成される。
これまでの渥堆発酵の過程では、微生物が邪魔をして味を思ったように変化させてくれない部分がある。いったん死んでくれないとどうしようもない。
酵素もまた、効力を発揮しやすい水分や温度の条件があるが、時間をかければ緩慢に変化がつづくので、それを頼りにするしかない。
やはり長期熟成でなければ解決できない問題もある。10年かかることもある。

泡茶で味が完成する。
お酒は液体で、完成した状態で売られているが、茶葉は個体で、まだ完成していない。
湯を注いだ瞬間に、温度の高い水と茶葉にあるいろんな成分とが融合して化学反応を起こして、味として完成する。
そこが泡茶の面白いところである。お酒を注ぐよりも、お茶を淹れるほうがずっと複雑なことをしている。
お茶の味を完成させるのは、湯を注ぐ瞬間である。

カビ毒について。
麹菌類にはカビ毒と呼ぶ毒素をつくるものがあるから、完成したのを一度地元の検査局で調べてもらう。茶葉を1キロ提供して、費用は1800元かかる。
茶葉のカビ毒は気温25度以下の低温多湿において発生しやすい。西双版納では乾燥に気をつけてさえいれば、まず問題はない。冬は乾季なので、空気は乾燥している。
渥堆発酵の最後の乾燥の工程では、茶葉を26度以上に保ちながら乾燥させる。
26度以上であれば、茶葉にまだ水分のあるうちは黒麹菌が生きていて、茶葉を守るだろう。このときちょっとだけ酸っぱいのが戻るかもしれない。

竹皮についた乳酸菌
竹皮についた乳酸菌
このお茶の原料である『巴達古樹青餅2010年』の7枚組を包んでいた竹皮を外したら、内側に白い粉が吹いていた。乳酸菌だ。
竹は乳酸菌と仲良しなので抗菌作用があって、食品の保存に利用できる。
こういうの大事だ。
存在理由のわからない菌をすべて排除するという考え方は間違っている。というか、不可能なのだ。
誤解を恐れずに言えば、自然界に存在する毒素でさえ、少量であればなんらかのカタチで人の身体の健康に貢献している可能性がある。風が吹けば桶屋が儲かるみたいにまわりくどくて、解明の難しいのも多いだろう。
そのご利益を排除してゆくような現代的な食品づくりの考え方が気持ち悪い。

ひとりごと:
渥堆発酵の熟茶づくりも労力のいる仕事。
細かな作業がたくさんあり、ひとつひとつにコツがある。
料理をつくるのと似ていて、慣れるまでは順序がわからなくてモタモタするし、余計なチカラを使うし、失敗もする。
しかし、慣れてくるとスピードが上がる。身体の筋肉もそれに対応して成長してくる。
料理の上手な人がチャッチャと手早くつくれるように、渥堆発酵の作業も手早くできるようになる。
作業のスピードやリズムもまた、お茶の味に関係していると思う。

巴達曼邁熟茶2010年 その5.

采茶 : 2010年4月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺

お茶の感想:
クエン酸でお茶が酸っぱくなる問題を考える。
渥堆発酵の主役の黒麹菌はクエン酸をつくる。
なので酸味がゼロという熟茶はありえない。
しかし、流通している熟茶はそれほど酸っぱくない。どちらかというと甘い印象がある。
どうやって酸っぱいのを抑えるのか?
ところで、泡盛のもろみは黒麹菌で醸されるが、酒は酸っぱくない。蒸留酒だから、蒸留するときにクエン酸は蒸発しないでもろみに残る。なのでもろみは酸っぱい。
熟茶づくりに蒸留という工程はないので、クエン酸を分離できない。酸味をどうにかして緩和するしかない。
このアプローチについて考えてみる。
まず、クエン酸を控えめにするよう黒麹菌の活動を抑制する手はあるだろうか。
例えば、加水の量を減らしたり、保温の温度を低めにしたり、好気性だから密封するなどして呼吸を制限したり。
これはありえないと思う。
とくに発酵開始数日内の段階では、他の雑菌を殺したり寄せ付けなくするために、黒麹菌の増殖が圧倒的多数でないといけない。
西双版納のような亜熱帯気候では雑菌の繁殖も早い。強力な免疫力を得ることが発酵食品づくりの第一歩である。
もしも黒麹菌がクエン酸をつくらなければ、乳酸など、他の免疫力を持たせる必要がある。たしかに、黒茶づくりには乳酸菌を利用するのもあるが、そうなると熟茶ではなくなる。亜熱帯地方の環境で育った黒麹菌でつくるからこそ、この地域の味といえる。
ただし、クエン酸を増やし続ける必要もない。
つぎに考えるのは、どの時点で発酵のブレーキをかけるかということ。
一般的に熟茶づくりの渥堆発酵の期間は1ヶ月から2ヶ月である。その間に、3回から5回ほど加水して撹拌する。最後に茶葉を乾燥させるまで、黒麹菌は繁殖しつづけるだろう。
ここで注目するべきは、茶葉の水分と温度と空気と、この3つの条件によって発酵の結果はずいぶん異なるということ。
11月21日の記事でも紹介したが、餅茶の中心の石ころのように硬いところ。500円玉くらいのサイズをそのまま発酵させている。
これが、実はあまり酸っぱくない。とても甘い。
茶頭
パラパラになった散茶は加水から数日後には乾燥するのに、この石ころ状の茶葉はまだ水分を持って柔らかい。水の逃げにくい構造であり、空気の入りにくい構造でもある。発酵中は水分のあるところほど発熱しやすくて温かい。でんぷん質を糖化させる酵素の作用が活性化しやすい環境になっている。
黒麹菌は空気に触れやすいところだけでクエン酸をつくりやすく、内側にはつくりにくいのかもしれない。しかし、糖化酵素もまた黒麹菌のつくったものである。
ということは、水分と通気を調整したら酸味のバランスを調整できるかもしれない。
実際に、2回目の加水ではそうしている。
大量の渥堆発酵では堆積した茶葉の中心部分にその環境がつくられる。原料の晒青毛茶を1メートルほど堆積する。水をかけてからは50センチほどに下がる。中心部から下のほうはかなりの圧力がかかって、茶葉と茶葉の隙間がつぶれて、空気が入りにくい。
布に包んだ7キロの小堆発酵でも、加水してから重しをするなどして圧力をかければ、石ころ状の茶葉の環境に近づけることができる。
1回目の加水と2回目の加水で、発酵の目的が変わっている。
泡茶
ラオスに壺に売られている固形の酒がある。
液体ではなく「餅麹」というカビだらけの硬いパンのようなものが壺に入っている。壺に水を注いで草みたいなので蓋をして、2日も待てば発酵して酒になる。
1回目の発酵が餅麹づくり。2回目の発酵が酒づくりとなっている。
餅麹づくりは主に麹菌の仕事。でんぷん質を糖化する酵素をつくる。この段階で酵母も増えている。
壺に水を入れてからは主に酵母の仕事。酵素がでんぷんを糖にして、酵母が糖をアルコールにして酒となる。
渥堆発酵はここまではっきり仕事が別れていないが、発酵には段階があるということ。
これを意識したら、1回目の加水と2回目の加水の目的はあきらかに異なる。
そして、2回目の加水後は頻繁に撹拌しないほうがよいことになる。撹拌するほどに茶葉から水分が蒸発して減り、新鮮な空気が入り込んで、糖分よりもクエン酸が盛んにつくられるだろう。酵母は二酸化炭素をつくるので、通気をしなければ渥堆発酵の茶葉のかたまりは酸素が少ない状態になる。
糖分を増やすことでクエン酸の酸っぱいのが緩和されて甘いお茶になる。
例えば、トマトソースをつくるときに長時間加熱するのは、クエン酸の酸っぱいのを抑えるためだが、砂糖をちょっと足すのも効果がある。これに似ているかもしれない。
葉底
ここまではよいが、もうひとつ新しい問題が出てくる。
それは酵母の作用について。
酵母は糖を分解してアルコールをつくったり乳酸菌を発生させたり、よい香りにつながる成分もつくる。アルコール発酵は空気のない状態で起こるはずだが、ミクロの世界では、茶葉に水を含んで空気のない部分もたくさんある。
しかし、酵母が活躍すると糖分は減る。せっかく甘くなってもまた元に戻る。
この間も、黒麹菌はでんぷん質を糖化する酵素をつくりつづけるだろうから、でんぷん質があるかぎり糖分は供給される。
供給が早いか消費が早いか。
このバランスも、茶葉の水分と温度と空気と3つの条件で調整できるのだろうか。
観察をつづける。

お茶の感想;
単独の渥堆発酵でちょうどよいバランスの風味に仕上げるのは、あんがい難しいのかもしれない。熟茶製品の多くがブレンドで仕上げられるのは、発酵が足りなかったり、行き過ぎたりするのを調整する目的もあるだろう。
単一の原料で単独の渥堆発酵。これで良いバランスに仕上げた『版納古樹熟餅2010年』はすごい。
職人が良かったのだ。

巴達曼邁熟茶2010年 その4.

采茶 : 2010年4月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺
巴達曼邁熟茶2010年茶葉

お茶の感想:
渥堆発酵に挑戦しはじめてから25日め。
電気カーペットで保温するようにしてから失敗がなくなった。
やはり極少量の渥堆発酵は全体の温度の変化が大きく、また急になりすぎる。大量の茶葉での渥堆発酵はその変化を緩和できるのだな。
加水の量が多すぎるのが原因と思っていたが、加水が多いと変化が大きくなって、結果的に温度調整が難しいのだ。
極少量の渥堆発酵「小渥発酵」と省略して呼ぶことにする。
温度管理と水分の調整が適切になってくると、小渥発酵のほうが発酵が早くすすむ。
主役の黒麹が繁殖してくると、はじめの2日目くらいまでは試飲しても味が変わっていないような、元の茶葉のままのような感じである。本当は甘味や旨味が少し増しているのだけれど、比べてみないとわからない程度。
これはすごいことなのだ。
なぜなら、水に濡れた茶葉が30度の気温で2日経っても変わっていないほうが異常だから。普通は腐るから。
この時点ですでに黒麹がすでに茶葉を支配している。
3日目くらいになってくると酸味が増してくる。酸っぱいお茶になる。これは黒麹のつくるクエン酸によるものと思われる。梅干しの酸っぱいのもクエン酸。この酸っぱさに似ている。黒麹はクエン酸で他の雑菌を寄せ付けずに自分だけのパラダイスをつくろうとしているらしい。
さて、この酸っぱいのが発酵の過程でどうやって酸っぱくなくなるのか?
ここがまだよくわからない。
他の黒茶で酸っぱいのはあっても、熟茶のプーアール茶に酸っぱいのはない。
泡茶
そう思っていたが違うらしい。
小渥発酵の途中の酸っぱいお茶を飲んだ後に『版納古樹熟餅2010年』を飲んでみると、酸っぱい成分の隠れているのがわかる。『7581荷香茶磚97年』などはもっとわかりやすく酸っぱい。
熟茶にはクエン酸が存在している。
食器やキッチンの油汚れが熟茶でサラッと流れるのは、クエン酸のせいだったのかな。
なぜ熟茶を酸っぱくないお茶だと感じるのか。
酸っぱいと感じさせないような成分構造に変わっているのか?
クエン酸が減少するような変化があったのか?
ま、おそらくその両方があって、最終的には甘いお茶になるのだろう。
クエン酸は重曹で中和するとか、130度以上の熱で分解するとか、酸っぱいのが減少する化学は知られているが、渥堆発酵の途中に重曹を加えるとか、130度の熱で加熱するというのは聞いたことがない。
(ただし、圧餅の蒸気の熱は、圧力がかかっているから130度に達しているかもしれない。)
渥堆発酵で起こっている自然の化学変化に、クエン酸の酸っぱさを緩和する作用があるのだと考えている。
実際に、小渥発酵の途中のを毎日試飲していると、ある日は酸っぱくて、ある日はそれほどでもない。酸っぱさに変化がある。
そして経験的に、小渥発酵の袋の中の茶葉をしっかり撹拌したときに、酸っぱさがやや緩和するのを知っている。袋の中心と外に近いほうでは水分や温度に差があり発酵状態が異なる。発酵でつくられた成分も異なるはず。
そうなると、小渥発酵で全体が均一化しやすいという問題は、やはり全体を大きな変化に晒すことで対応するしかないな。
葉底

ひとりごと:
渥堆発酵による熟茶づくりを経験することで、生茶の老茶を再現する技術が見つけられると考えている。
微生物発酵の「黒茶」としての生茶である。
すでに出品中の生茶はともかく、これから新しく出品する当店の生茶は、天日干し「緑茶」ではない。お客様が手元でカンタンに保存して年月が経つほどに魅力的な味わいになってゆく「越陳越香」の黒茶のプーアール茶である。
そうする。
渥堆発酵の発酵のある段階において、1950年代から1980年代の生茶の老茶にあった、あの香り・あの風味が一瞬顔を出すことがある。
どこかに似た変化が起こっているのだ。


茶想

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