製造 : 1998年
茶葉 : 雲南省西双版納州巴達山
茶廠 : 孟海茶廠
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 餅茶崩し
保存 : 通気・密封
茶水 : 京都の地下水
茶器 : チェコ土の茶壺・チェコ土の杯・鉄瓶+炭火
お茶の感想:
茶葉の整理をしていたら30gほどサンプルが出てきた。
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【大益貢餅熟茶98年崩し】
旬の若い茶葉が主原料の、典型的な現代熟茶。
現代熟茶の中では最高峰のひとつ。
写真: 2010年当時撮影。2.8キロの大餅。崩したら金花がびっしり。
熟茶の渥堆発酵について、昨年の秋からある問題に注目している。
発酵の過程で酵母が過剰に活性化すること。
原因は、やわらかい若葉が原料になっているため、と推測している。
微生物発酵の黒茶はもともと大きく育った老葉が使われていた。1970年代から量産のはじまった熟茶づくりにも当初はそういう茶葉が使用されていたが、国営時代の孟海茶廠が新芽・若葉をふんだんに使った新しいタイプの熟茶を出品する。
1975年のこのお茶が最初だろうか。
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【7562磚茶プーアール茶】
やわらかい若葉のしなやかな繊維と含水量の多さとが、酵母だけに有利な環境を提供して、他の優良な菌類の活動を制限してしまう。とくに黒麹菌は、酵母の発熱による高温と息苦しさのために生きていられる期間が短くなる。
渥堆発酵の茶葉の山の上のほうと下のほうと2層をつくって、下のほうでは高温・多湿になっても上のほうでは適温・適湿が保たれるようにして黒麹をつなぎとめて、渥堆発酵の生態環境を維持するのだが、1ヶ月間のうちに何度か撹拌して上下を混ぜ合わせるから、最後には全体が酵母発酵臭い茶葉になってゆく。
黒麹と酵母の活動時間の割合が、例えば5:5が理想だとしたら、現実は3:7くらいだろうか。感覚的に。
「酵母発酵臭い」と言ったが、味は悪くない。むしろ甘くて、発酵の良いのは”美味しそう”な香りがする。
味の問題じゃないのだ。
体感の問題。酵母優勢の熟茶は暑苦しい。冷えた身体でないと美味しく飲めない。
消費者の嗜好というか、現代の人々の生活に合わせてお茶を飲む目的が変化して、体感よりも味のほうが重視されている。
しかしこの傾向は好ましくないと自分は見ている。
お茶がクスリから離れて味の嗜好だけを求めると、コーヒとポジションの奪い合いをして価格競争になる。
とくに微生物発酵茶においては、味はあくまで薬効を確認するための指標というくらいの役割で良いと思う。
正しい味よりも、正しい体感。
お茶はクスリからポジションを奪い返すべきだ。
(ここで言うクスリとは、病気を治すよりも快楽を得るほうのクスリ。)
さて、このお茶『大益貢餅熟茶98年』はどうか。
このタイプの熟茶は、煮やしてはいけない。
高温の湯がよいので蓋碗よりも茶壺だけれど、短時間の抽出でサッと湯を切りたい。
1煎め2煎めは、発酵度の浅いスッキリ爽やかな風味となる。
1998年の国営時代の孟海茶廠の職人が自分用にとっておいたお茶で、その職人から入手しているので、原料の茶葉の身元が特定できている。孟海茶廠の自社所有の巴達山の茶畑のもので、他の地域のブレンドは無い。
渋味がしっかりしているし、口感のとろみも少なめだし、この味がブレンドしない無調整なのだから、発酵度の浅い渥堆発酵だと推測できる。
そして、たぶんこのために暑苦しさが抑えられている。
現在の渥堆発酵の技術において発酵度が浅いということは、例えば涼しい季節に低めの温度で発酵させるとか、なんらかのカタチで酵母発酵が抑制されているのかもしれない。
3煎めくらいに抽出に時間をかけてみたら、やはり煮え味の酸味が出てくる。
ただ、製茶工程の渥堆発酵後なのか圧餅後なのか、熱風乾燥の高温による焦げ味が効いているから、煮えた味になってもバランスは崩れない。美味しい。
1998年のもので現在2018年だから20年熟成モノ。
20年間の常温保存による焦げ(メイラード反応)も関与しているから、つくられた当時に意図されたバランスではないかもしれないけれど。
葉底の色が均一であるのがブレンド無しの単一発酵モノであることを裏付けている。
茶葉の大きさが均一なのは、渥堆発酵後に篩がけで選別されているから。
篩がけは、渥堆発酵の茶葉の山の上の層・下の層の2層のうちの上の層のやや乾燥した部分だけを抽出できる。なぜなら、下の層になった若葉は茶葉同士で粘着してくっついて茶頭と呼ぶ塊になりやすいから。
茶頭の大きさは様々で、豆粒くらいから小石くらいまで。しっかり固まったのもあれば、揺すればほどけるくらいゆるいのもある。これらはすべて酵母発酵臭い。
渥堆発酵の撹拌のときに、茶頭をほぐさないように残しておいて、つまり撹拌を適当に手抜きして、最後の篩がけで取り除くようにしたら、酵母発酵の抑制された茶葉だけを抽出できる。
ということじゃないかな。
手抜きするためには、篩がけを機械を使って厳密にしちゃいけない。鍬みたいなので人力でザックリやるほうがよい。
ということは、近代的な設備ほど酵母発酵臭いお茶ができやすいことになる。
酵母発酵臭い茶葉とそうでない茶葉を篩にかけて選別したらよいのだ。1つの原料から2つの熟茶をつくればよい。
ただし、半々ではない。
酵母発酵臭くない茶葉は、3:7の、3のほうだけを選ぶ贅沢なつくりとなる。