製造 : 1996年
茶葉 : 雲南省西双版納孟臘県易武山
茶廠 : 孟海茶廠(国営時代)
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 香港 広州乾倉 日本室内紙箱
茶水 : 京都の地下水
茶器 : チェコ土の茶壺・鉄瓶・炭火
お茶の感想:
古い友だちが東京から会いに来てくれた。
遠方より友来る。
美味しいご飯とお酒とお茶と、いい時間が流れた。
歳をとるほどこういう時間が輝きを増してくるよな。
忘れていた記憶が芋づる式に掘り起こされる。時が経てばこんなふうになにもかもが美しく宝物になるなら、今の我慢ならないことは熟成味のスパイスみたいなものだ。
ところで、上海でお茶の仕事を始めたばかりの2004年の頃に、友達が景気付けにたくさん買ってくれたお茶があった。
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【紅絲帯プーアル青餅96年】
ほとんどプレゼントにしたそうだが、手元に2枚残っているらしい。
・・・ん?
今なんて言った?
出たーーーーーーっ!。
うおーーーーーーーーーーー!。
生きていたらいいこともある。
14年前の売値は1枚19,000円だったと思うが、現在値をつけるなら1枚18万円かな。上海なら25万円はいけるだろ。
1996年のお茶だから22年熟成・・・という単純な価値ではない。原料の茶葉の産地や製法が微妙に違うのだが、その違いが再現できない。
もしもこのお茶をホンモノのプーアール茶とするなら、現在のプーアール茶はどんなに高価であっても似て非なるレプリカモノ。写真よりも明らかな事実であるお茶の味がそれを証明する。
友人にそのことを伝えると、価値の分からない者が飲んでも仕方ないと言い出して、それなら自分のオリジナルのお茶4万円相当と交換しようと提案した。なかなか悪くない条件だろ・・・お互いに。
たぶんお互いにそう思っているのだけれど、友人は美味しいものにツキがある。そういう星のめぐりなのだ。
14年前これを手放したときはもっと青かった。
紹介文章を振り返ってみると、蓋碗でサッと湯を切ってあっさり淹れたほうがよいと書いているけれど、今は違う。土モノの茶壺でじっくり淹れたほうがよい。
チェコのマルちゃんの出番。こういうお茶はお茶ファンのつくった茶器でないと許されない。
緑茶っぽい新鮮味はほとんど残っていない。常温の焦げによるココアのような芳ばしい香り。渋味・苦味を丸め込んでしまう透明感のある甘味。柑橘系の酸味。
この味から考えて、文章の間違いを訂正した。この茶葉は易武山のもので孟海茶区のものではない。
さらに、広州の倉から出たところのを仕入れたが、その前に香港の倉に入っていたにちがいない。そういう味。身元がはっきりしている味。
最近話題にしている保存熟成の茶葉の芯の水に注目してみる。
見て触ってすぐにわかるが、この茶葉のミクロの繊維の水道管はもう水をたっぷり含むことができなくなっている。茶葉は軽くてカサカサで弾力も失っている。
友人は14年間押入れの中に餅茶専用の紙箱ごと保存していたらしい。”常温の焦げ”メイラード反応がすすんで茶葉の繊維を劣化させるのだろうか?いや、やはりそれだけじゃない。微生物がなんらかの仕事をしているだろう。それが初期の段階だけなので発見しにくいというか、証明しにくいのだ。
内票。
この説明にちゃんと”適度発酵”と書いてあるけど・・・。
酸化発酵のことなのか微生物発酵のことなのかもわからない。
ま、わかっていても再現できない。
葉底はあまり変色がすすんでいない。茶湯の色ほど赤くなっていない。
長期保存の茶葉が水分をたくさん含んで酸化がすすむと、葉底も赤く変色がすすむ。
乾燥状態が保たれると、わずかな酵素反応とメイラード反応で熟成してゆき、それは葉底の変色を急速にすすめたりはしない。
お茶の味は熟成がすすんでも、葉底の色は味ほどに変化しない。
ということかな。
およそ20年モノのプーアール茶は数あれど、たいがい、お茶の味の熟成のほとんどすすんでいないものか、葉底が赤く変色して湿気た味のするものか、どちらかである。「そんなのみんなニセモノだ!」と言ってしまったら僕らの商売は難しくなる・・・。
ひごりごと:
籾殻もちゃんとある。
茶農家は専業化しちゃダメ。
籾殻の麹菌が農家の家のそこらじゅうに着いていないと。
米もつくって半自給自足をしないと、山の生態バランスが崩れてしまう。山の環境とお茶の味と、僕らの身体のコンディションと、すべてに因果関係がある。
地球はひとつ。
葉底を銅のヤカンに移して煮出して飲む。
今日は一日中このお茶で過ごす幸せ。