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熟茶づくり実験2019年 その2.

製造 : 2019年4月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県孟宋山小茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 微生物発酵途中
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 中国宜興の茶壺・グラスの杯・鉄瓶+炭火
渥堆発酵
渥堆発酵

お茶の感想:
メーカーの熟茶の微生物発酵は、数百キロから数トンもの大量の茶葉を数十センチから1メートルの山にして水を掛ける。これを渥堆発酵と呼ぶ。
茶葉を床にひろげて不衛生に見えるかもしれないが、実はこのやり方がもっとも衛生的で経済的で生産効率も良くて、理に適っているかもしれないと思う。
他のやり方を模索していろんな可能性を考えてみたけれど、一巡してここに戻ってきた。昔の人の知恵がある。
それでも、自分はもうちょっと蒸籠を使ってやってみようと思う。
蒸籠
蒸籠
蒸籠は一段ごとに分けられる。種類の違う茶葉を試したり、発酵の具合を調整したり、発酵のスタートに時間差をつけたり。実験にはこれが向いている。
蒸籠の欠点はその複雑な形状にある。
格子
発酵食品づくりはどんなものでも清潔を保って、人間の身体に優良な微生物だけを育てるようにしなければならない。
したがって、設備や道具の掃除洗濯の仕事量が半端なく多い。
ザッと見積もっても仕事の半分は掃除洗濯。12時間働いたら6時間分は掃除洗濯している感じ。
例えば、茶葉を包む布袋を洗うのは、まず布目に挟まって落ちにくいクズ茶葉をひとつひとつ指で取り除くところからはじまって、手洗いして、洗濯機で洗って、干して。煮沸消毒することもある。10枚の布袋を洗うとそれだけで1時間以上費やしている。
洗浄には水をたくさん使うし、洗濯機も回すし、煮沸にはガスの火も使う。
蒸籠は複雑な形状ゆえに掃除が面倒で、格子状になった隙間のカビのような色を歯ブラシで擦ってキレイにするのがたいへん。どうりで、麹蓋は底板が一筋だけ割れた単純なカタチになっているわけだ。
道具が多いほど、構造が複雑なほど、労働が増えて資源を消費する。
だから道具なしで床に茶葉を広げる渥堆発酵はカシコイ。シンプルで省エネ。
丁寧でキメ細かな仕事がぜんぜんできない西双版納の人でも大丈夫。
布袋
さて、前回の記事で「麹造りがヒントになる」という話をした。
熟茶づくりでいちばん大事なのは黒麹菌。
微生物発酵茶を分類するなら、プーアール茶の”熟茶”は黒麹菌による発酵茶であると定義してもよいくらい。
黒麹菌がいなければ、この地域で水を掛けて行う渥堆発酵は腐敗するだろう。
微生物発酵
茶葉の色が黒くなる
今回は茶葉を蒸して殺菌してから種麹を使って培養してみた。
その目的は、黒麹菌による茶葉の変化に注目したいから。
一般的には蒸したりしない、種麹を撒くこともない。
しかし、いつものように常温で茶葉に水を撒くところから、茶葉に付いている天然の菌類の培養からはじめたら、黒麹菌以外の別の菌もいっしょに育てるかもしれない。
いや、かもしれないじゃなくて、育てていたのだ。
そいつは”納豆菌”だった。
そう、納豆をつくる菌。この地域では豆鼓づくりに活躍している。
豆鼓
黒麹菌を育てる過程で、水分を多くしたり保温の温度を調整したりするうちに、なにか別の菌が湧くような現象に気がついた。それがキッカケとなっていろいろ調べていたら、納豆菌の特徴にすべてがあてはまる。まちがいないだろ。
右が納豆菌の繁殖した茶葉
右: 黒麹菌の葉底
左: 黒麹菌と納豆菌の混生の葉底
納豆菌は悪いヤツじゃない。
枯草菌の一種で、枯草菌は熟茶の微生物発酵に有効に働く微生物のひとつで、文献にもはっきり書いてある。でも、納豆菌とは書いていなかったから、お茶の味には関わらないと考えてノーマークだった。
とんでもない。納豆菌と知ってからは、発酵中の茶葉にも、お茶を淹れて飲んでも、その匂いや味の特徴を見つけられる。黒麹や酵母の醸す風味と同等に主張している。
納豆菌の他にクモノスカビやケカビも関与しているが、今のところお茶の味との関係は不明。後にひとつひとつ解明してゆく。
温州人の熟茶
温州人の茶友のこの写真の白いのは、納豆菌か、もしくは納豆菌の繁殖した環境で茶葉の表面につくケカビだったのかもしれない。黒麹菌の優勢な環境下ではこういうふうにならないから。
納豆味の熟茶が市場にあふれている。
もちろん、納豆味オンリーではない。黒麹や酵母や乳酸など混生状態から生み出される複雑な味に納豆菌特有の風味が混ざっているだけ。納豆は大豆で熟茶は茶葉。しかも熟茶は乾燥していて熟成もすすんでいる。だからお茶を飲んでコレが納豆味とはすぐにわからないかもしれない。
1990年代後半からの熟茶に納豆味が増しているが、ずいぶん長い間みんながこの味に慣れ親しんでいる。
この状況を逆手に取って、「黒麹菌の単独発酵に成功しました」と言ってお茶を売る業者が出てきそうだが、そいつは嘘つきだ。言葉の印象を利用して無知な消費者を騙す手口である。
茶葉という複雑な組織形状と、成分構成と、地域の気候風土と、良性な菌類の混生状態にもってゆくしか熟茶をつくる手はないだろう。
それに、もしもだが、たとえ黒麹菌が単独で茶葉を発酵させても美味しくはならないだろう。
バランスが問題。
茶友らの試みている熟茶づくりに違和感を感じていた、アンモニア臭・糠味・からすみ味、これらは黒麹菌がしっかり繁殖する間もなく納豆菌が繁殖した結果である。
麹造りに「スベリ麹」という言葉があるが、それそのものである。
熟茶の発酵は納豆菌も混生状態だからいいのでは?と思うかもしれないが、そうじゃない。茶葉がスベリ麹になるということは、黒麹菌の菌糸がしっかり茶葉の内部まで潜り込んでないということ。表面にだけ繁殖しているということ。内部まで潜り込めないのは茶葉が含んだ水分が多すぎて黒麹菌が呼吸できないから。水の中にも強い菌類だけが茶葉の内部に繁殖する。例えば、納豆菌とか酵母とか、危ないケースでは他の雑菌とか。
発酵食品は、優良な微生物により成分を変えて栄養価を高めるよりも先に、まずは優良な菌類が悪い菌類を寄せ付けなくして、腐敗を防ぐ環境をつくるところからはじまる。
ここでの黒麹菌の仕事は2つある。
1つめは茶葉のミクロの繊維の組織構造を変えること。
ちじれた茶葉
写真のように茶葉がだんだん縮れてくる。菌糸が深く潜り込んで茶葉の繊維をほぐすから。
茶葉は米や大豆に比べてずっと給水力のある組織構造なので、加水の量をちょっとでも間違うと内部は水浸しである。
スポンジに例えるとちょうどわかりやすい。
スポンジ細かい
スポンジ粗い
キメの細かな面は水を吸うと内側に空気がなくなる。
キメの粗い面は水を吸ってもサッと切れて空気が通る。
渥堆発酵はおよそ1ヶ月間に4回から5回は水をかけて加水するが、基本的に好気性の細菌が活躍するから、茶葉の通気を良くて微生物が呼吸しやすい環境を作ってやらなければならない。
黒麹菌の菌糸が茶葉の繊維をほぐして、キメの粗いスポンジのようなスカスカの状態をつくって、良好な発酵となる。
2つめは成分構成を変えること。
いちばんわかりやすいのはクエン酸。
クエン酸
クエン酸
電熱ポットに付いていた洗浄剤のクエン酸。中国語で檸檬酸。
箱にはレモンの写真があるが、レモン果汁からつくられたのではなくて、芋かなにかを黒麹菌で発酵させてつくったはずだ。
クエン酸は水垢を取り除く効果もあるし、アンモニアを分解して消臭する効果もある。
そう。納豆菌がつくるアンモニア臭もクエン酸が分解するはずなので、アンモニア臭が残る茶友らの熟茶は黒麹菌がしっかりクエン酸をつくっていないとことになる。
レモンや梅干し。これらクエン酸由来のすっぱい味と同じように、渥堆発酵の中盤までの熟茶はむちゃくちゃ酸っぱい。ちょっと苦い。この味が黒麹菌がしっかり繁殖しているかどうかの指標のひとつになっている。
クエン酸の強い酸でもって他の雑菌を寄せ付けなくして衛生的な環境をつくる。
その他にも、麹菌は抗生物質をつくって抗菌することが知られているし、また、”塩基性”と呼ぶのかな?詳しくはないが、渥堆発酵中の湿った茶葉を酸化させずに新鮮を保つこともしている。
黄色く明るい茶湯
渥堆発酵中の茶湯の色は明るい黄色。長い期間湿ったままの茶葉なのになかなか赤く変色しない。
黒麹菌がまずは環境をつくる。
その第一歩というか、黒麹菌にちょうど良くて他の菌にあまり良くない環境を与える発酵のスタートでいちばん大事なのが、茶葉の浸水。というか茶葉への散水。
このちょうどの頃合いを見つけるのに、また数キロの茶葉を失敗した。わざと水を多くしたり少なくしたりして失敗する頃合いを探った。つもりだ。
茶葉へ散水
写真は散水してから茶葉に水がなじむのを待っているところ。数時間待ってから蒸す。
酒造りの米の浸水ほど微妙な水分調整は要らないけれど、その逆に茶葉の形状や大きさが整わないことによる吸水ムラを考慮しなければならない。
黄片と新芽若葉
左: 黄片
右: 若葉
同じ時期に採取された茶葉だが、カタチも質も異なる。
柔らかい若葉が育ちすぎて硬くなった”黄片”と呼ぶやつは水をたくさん吸う。そのかわり繊維が太くて大きく膨れて、茶葉と茶葉のスキマをつくりやすい。通気が良い。柔らかい若葉は水を吸う量が少ないかわり茶葉と茶葉のスキマをつくりにくい。通気が悪い。
黄片の通気が良いからと言って水を多く吸わせると、発酵により発熱してきたときに厄介。撹拌しようが広げようが、茶葉がたくさん水を含んでいるかぎりなかなか熱が散ってくれない。40度を超えて黒麹菌の活動できない時間が長くなる。
柔らかい若葉は水を吸う量が少なくても、上に紹介したスポンジのキメの細かな面のように、内部に空気が少なくなりがち。かといって水をもっと減らすと黒麹がうまく繁殖しない。
茶葉の内側までまんべんなく水分と空気が入りつつ、茶葉と茶葉のスキマも適度にできる。
そんな水の加減。
水分量計測
温度や水分を計るのに便利な機器があるが、もっとも頼りになるのは目とか鼻とか指とか。今回の黒麹菌を培養する過程ではとくに匂いの教えてくれることが多くあった。
日本の麹づくりに関するサイトや動画がたくさんあって、ネットで検索をしてずいぶん参考にした。(みなさまありがとうございます。)
それらが言うには、うまく麹が育つと栗のような甘い香りがするらしい。コレ、熟茶の発酵にも共通している。もちろん米じゃなくて茶葉なので茶葉特有の香りもあるが、栗の香りには麹がつくる成分に共通したものがあるということ。発酵の状態が現れているわけだ。
西双版納で多く作られている黒糖の匂いにも似ている。
「焼き栗のよう」と表現されているのもあったが、茶葉の場合は”焼き栗香”が出たらヤバイ。水が多すぎ。ということも失敗を重ねてわかってきた。
今回問題視している納豆菌についても匂いのサインがヒントになっている。
ちなみに、いくら黒麹菌がうまく増殖してクエン酸をたくさんつくっても、納豆菌は平気な様子。納豆菌だけじゃない。酵母菌も乳酸菌もぜんぜん気にしない様子。仲が良いのだなこの人達。
納豆菌の沸くサインは栗の匂いに醤油っぽい匂いが混ざるところから始まる。この時点ではまだバランスの良い共存。このバランスのままゆけば良い熟茶に仕上がる。
納豆菌の茶葉
納豆菌の繁殖がさらにすすんでしまうと、例えばナマコとかホヤのような潮の匂いがしてくる。
こうなるともう黒麹菌は劣勢になっている。熟茶づくり的にはアウトなので自分はマンションの敷地の庭の植物たちの肥やしにしているが、茶友たちはこの味が好きな熟茶を知らない人達を探して売っている・・・。
納豆菌の増殖までゆかなくても、通気が悪いと乳酸菌が騒ぎ出す。これにも匂いのサインがあって、いわゆる漬物のあの匂いがかすかに出てくる。
ほんのちょっとの環境の差。
カンタンに言うと黒麹菌はやや涼しくて通気が良いのを好む。温度30度くらいで、指で茶葉を丸めて固めてもくっつかないくらいの水分量。
蒸籠を使いはじめたときに一度、いや、二度失敗しているが、その原因は蒸籠の蓋にあった。
蒸籠は蒸すためにつくられているので、その蓋は竹編みの2重で油紙を挟んだ密封構造になっている。通気がない。
そのことに気付かなくて、いちばん上の段の蓋のすぐ下の茶葉が蒸れてしまった。発熱して39度まで上がってしまった。これに納豆菌と乳酸菌が湧いていた。
蓋
蓋
それで蓋を竹編みの笊に変えた。
ちょっとのバランスで優勢となる菌が変わる。
2度めの散水からは酵母の増殖が確かめられる。
酵母は、水の中では糖をアルコールに変えて、熟茶づくりにおいては香気成分に華を添える。水分が多いときに酵母がそのような反応をして、スイカとかマンゴーとかバナナとか甘いフルーツの香りを放つ。サイダーのような甘い香りは酵母の出した二酸化炭素によるもの。
当初はこれを喜んでいたけれど、渥堆発酵を知るほどにキケンなサインとなってきた。
この香りが出てくるということは茶葉の持つ水分が多すぎるということと、通気が悪いためで、まもなく納豆菌が湧いてくる。
茶葉が水分を短時間で吐き出して、適度な通気をつくって、栗のような黒糖のような大人しく甘い香りに戻ってほしい。
ところが、なぜかそうならないことがある。
茶葉が水分を持っていて、気温よりも4度から5度も温かい状態ならば、水は蒸発しやすいはず。天日干しの洗濯物のように水が逃げるはず。
ところがそうならないで茶葉はむしろ水分をどんどん吸収するかのような、一般常識が通じないヘンな現象が起こる。
はい。
今日の授業はこれで終わり。

ひとりごと:
長いな。でもまだ入り口。
つづく。

熟茶づくり実験2019年 その1.

製造 : 2019年4月
茶葉 : 雲南省西双版納州漫撒山丁家老寨生態茶2014年春茶
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 微生物発酵途中
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 中国宜興の茶壺・グラスの杯・鉄瓶+炭火
餅茶崩し
餅茶崩し

お茶の感想:
西双版納に戻ってすぐに茶葉の保存部屋を整理した。
在庫の茶葉をすべて追い出して、微生物発酵茶の実験のためだけの部屋となった。
春茶の季節になって、3月末には各茶山で古茶樹の采茶がはじまって、みんなは忙しそうに茶山を行き来しはじめたけれど、自分はひとり部屋にこもったまま微生物の世話をしている。
今年の春のお茶の生産はあきらめることにした。
つくったら、圧餅などの加工をしなければならないし、保存熟成をしなければならないし、お茶を紹介する文章づくりや、試飲会もしなければならないし、それなりに時間を費やしてしまう。
そこに時間をかけていたら前にすすまない未解決の問題がある。
微生物発酵の問題。
生茶と微生物発酵
左: 一般的な生茶のプーアール茶
右: ちょっとだけ微生物発酵させた生茶のプーアール茶(実験中)
そもそもプーアール茶に興味を持ったのは、微生物発酵茶の優れた薬効に出会ったから。産地に住んで生産現場に立ち会っているのは、過去の(1980年代頃まで)のような上質なお茶が現在はなぜできないのか原因を探りたかったから。
この10年間ほどでいろいろわかってきて、最後に残る謎が微生物発酵の問題となった。
そう。いちばん最初に知りたかった謎の解明に10年もかかっている。
さらに10年かけないようにしたい。
解明したいのはこのふたつ。
1.生茶のプーアール茶は現在は微生物発酵茶ではないと分類されているが、本当のところは微生物発酵茶であった。だから越陳越香の長期熟成に魅力があった。
2.熟茶のプーアール茶は過剰に深く発酵した現在のようなものではなかった。浅い発酵に仕上げたものを長期熟成によって深く仕上げていた。だから味も体感も涼しい。
このふたつの仮説を、お茶の味と体感という現物をもって証明したい。
証明したら、この仕事はアガリ。めでたしめでたし。
ということで、まっすぐゴールに向かいたい。
今年の春茶の毛茶(プーアール茶の原料となる農家で仕上げた天日干し緑茶。)が仕上がるまで待てなくて、まずは手元にあった在庫の2014年の生茶の餅茶で麹菌の種付け実験からはじめた。
黒麹菌
種は黒麹菌。これは熟茶のための実験。
黒麹菌が熟茶づくりのスターターとなる菌であることが特定できている。
入り口はわかっている。その分、まだ入り口のはっきりしない生茶よりも解明は早いだろうと考えている。
生茶の謎は、まだスターターとなる菌種が特定できていないが、しかしこれも2種か3種ほど試したらはっきりすると思う。
微生物発酵
さて、熟茶の発酵。
2016年の秋にも自分で微生物発酵の実験をして失敗をして、サンプルをひとつも残さずに捨ててしまった。
失敗のいちばんの原因は、黒麹菌をしっかり培養できないまま次のステップに進んでいたから。
これがわかるのに2年もかかった・・・。
熟茶の発酵はいくつかの菌が関わって、その変化にいくつかの段階があるが、最初の段階で躓くと後に悪い影響を及ぼす。
例えば、味噌や醤油づくりにはまず麹をつくる。酒もそう。これに似ていて、熟茶づくりもまた黒麹をしっかり培養するところから始まる。
麹造りにヒントがあった。
後から思えばカンタンなことで、カビ系統の発酵食品づくりには常識だけれど、この仕組みに気付くのに時間がかかった。
西双版納には黒麹菌はそこらじゅうに居る。空気中にも飛んでいるし、茶葉や倉庫や設備や道具にも黒麹が付いていて、茶葉に水をかけるだけでカンタンに湧く。
微生物発酵
微生物発酵
微生物発酵
写真: 町の酸醤米線屋の発酵
しかし、湧くだけではダメで、黒麹の菌糸がしっかり茶葉の中心部にまで入り込んで、しかるべき仕事をしなければならない。そこに人の手の助けが要る。技術がある。
西双版納は熱帯雨林の地域なので雑菌の種類も多い。他の菌類に邪魔されないよう、なるべく黒麹が優勢に働く環境をあたえて育てる。茶葉ならではの形状や成分に合わせて、黒麹菌を上手に働かせるのが技術となる。
熟茶づくりの第一歩。
今回の実験では、確実に黒麹菌を育てたいので、最初に茶葉を蒸して殺菌することにした。
通常はしないことだが、1000年以上も歴史のある微生物発酵の黒茶づくりにおいてはむしろ定石。最初に熱で茶葉を殺菌するのは、優勢菌を選ぶのに有効な手段なのだ。
蒸す
水分を足すために蒸す前にちょっと茶葉に水をかけている。水分が増えたことで熱伝導率がよくなって蒸しの効率が良い。そして茶葉の中心にまで適度な水分がゆきわたる。
2.5キロの茶葉を24分間蒸して、茶葉の温度は96度に達して、ほとんどの菌類が死滅している・・・はず。そこに種麹を付ける。
温度も水分も空気の通り具合も、黒麹の好む環境をつくった。
蒸籠
微生物発酵
なぜ茶葉が2.5キロの量かというと、蒸籠の一段にちょうどだから。
蒸籠は、酒蔵が使っている麹蓋のように上下に通気があり、重ねることで保温も保湿もできて、麹が好む環境をつくれる。竹の素材は乳酸菌と仲が良くて抗菌力もある。
日本では麹部屋ごと温度と湿度を調整するが、それはしない。なぜならここは熱帯雨林の地域で、そんなことをしたら確実に雑菌天国となる。できるだけ蒸籠の中だけに環境をつくりたいが、実際は難しい。天気の変化の影響をモロに受ける。
ところが、茶葉は植物繊維の複雑な構造ゆえに保水力や保温力があるので、米や大豆ほど繊細な調整は要らない。それに、もしかしたら一日の気温や湿度の変化も良い影響がある・・・と考えている。
蒸籠発酵は、改良点はまだまだあるけれど、調整を重ねてゆけばあんがいいい仕事ができそうな気がする。
微生物発酵
写真: 黒麹菌発酵5日め、散水2回め1日後の茶葉
今回の実験の目的は、黒麹が優勢となって他の菌類があまり増殖できないような環境を探ること。
そして茶葉の中心部にまで菌糸が伸びるまでにどのくらいの時間を要するのかを知ること。
顕微鏡もなしでどうやってそれを確かめるのか?
そこは経験で、黒麹がちゃんと働くと顕微鏡を覗くよりももっとわかりやすい現象が現れる。
茶葉の匂い、お茶の味、お茶の色、葉底の質感の変化。など。
茶葉を加熱
茶湯
2.5キロ分×3回=7.5キロ分失敗してから、現在は2.5キロ×3回分が蒸籠に入っていて、この3回分はスタートを1日ずつずらしていて、今のところ安定している。
写真の試飲は2回めのやつで、黒麹菌発酵5日め、散水2回め1日後の茶葉。
酸っぱいお茶
1煎めはただの甘い汁。白ビールみたいな感じ。
2煎めからは、甘い香りに反してものすごく酸っぱい。3煎め4煎めまでが酸っぱい。レモンの酸っぱさ。5煎めからは甘味が出てきてバランスが取れてフレッシュなジュースみたいになる。
これでいいのだ。
黒麹菌がクエン酸をつくっているから酸っぱい。この酸でもって他の雑菌を寄せ付けなくする。衛生的に発酵できるようになる。ちなみに、クエン酸は中国語で”檸檬酸”と書く。
菌糸が茶葉の内部に入り込むから2煎めから4煎めまでが酸っぱくなる。うまく仕上がっている証拠。
体感は穏やかで、夜に飲んでも眠れなくなることはない。その逆で、貧血のようなクラっと目眩がして、眠気がする、いい感じの茶酔いがある。
一般的な熟茶のような身体に熱を持つことはない。生茶のように涼しいが、生茶のように寒いことはない。ガブガブ飲んでも大丈夫。
何日か飲み続けていると、肌のコンディションが良くなって、頬がスベスベツルツルになってきた。
5煎め
5煎めからはほんとうに美味しい。ずーっと飲んでいたくなるお茶。
この美味しさ、味のバランスから、昔の生茶も微生物発酵していたと確信するようになった。
茶湯の色に赤味が増すことの少ないのも、黒麹の活動した成果。通常なら5日間も茶葉を湿ったままにさせたら酸化して茶湯はオレンジ色に変色する。酸化を防止するなにかを黒麹がつくっているのだ。
葉底の茎
茎つぶす
葉底の茎の部分が指でカンタンに潰れるのも黒麹の仕業。しっかり菌糸が入って繊維の組織を破壊してくれている。
スタートしてから4日目に2回めの散水をしている。
散水したとたん黒麹の菌糸はいったん枯れる。どうやら水で窒息死するようなのだ。
なので、散水するまでの4日間がひと巡りになる。
例えば、春夏秋冬の季節が巡り、草の種が芽生えて根が生えて葉や茎が伸びて花が咲いて種をつけて枯れてゆく・・・というようなのと似た成長の過程がある。
黒麹菌自体は目に見えないが、茶葉に現れる変化を観察していると、なんとなくどの成長段階にいるのかがわかってくる。例えば、はじめは水で湿って柔らかい茶葉が、黒麹が繁殖してくるとやや硬くなってサクサクしてくる。茶葉同士がくっついてサクサクなまま全体がひとつにまとまってくる。
このひと巡りの終わりに、そのまま放っておくとどうも調子が悪くなることがわかってきた。黒麹の活動が鈍ると他の菌類が働きやすくなるからだろうか。
散水をして、新しいひと巡りをスタートさせるのか、それとも微生物の活動を止めて終わらせるのか、はっきりさせないといけないタイミング。
このタイミングが2016年のときにはわからずに失敗を繰り返していた。早すぎたり遅すぎたり。
散水後10時間め
写真: 2回めの散水、数間後の茶葉
2回めの散水だけで発酵を終わりにするのはありえない。
クエン酸が強すぎる。
クエン酸は、重曹で中和するとか、人工的に調整することもできるはずだが、散水を何度かしているうちに自然に落ちてくる。自然に調和したものを身体に取り入れたいから、薬品を使っての強制的中和はありえない。ただ、水の成分を考えて、市販のミネラルウォーターの中で適したのを選ぶのはアリかもしれない。
はい。
今日の授業はここまで。
いろいろありすぎて、書きすぎるとなにが重要なのかわからなくなるから、詰め込みすぎないようにしたい。
この数日の実験で、熟茶の味にかかわるもっと大きな発見があった。
これまでまったくノーマークだった菌がものすごく影響していることがわかった。
発酵のミステリー。

ひとりごと:
つづく。

1

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