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熟茶づくり実験2019年 その1.

製造 : 2019年4月
茶葉 : 雲南省西双版納州漫撒山丁家老寨生態茶2014年春茶
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 微生物発酵途中
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 中国宜興の茶壺・グラスの杯・鉄瓶+炭火
餅茶崩し
餅茶崩し

お茶の感想:
西双版納に戻ってすぐに茶葉の保存部屋を整理した。
在庫の茶葉をすべて追い出して、微生物発酵茶の実験のためだけの部屋となった。
春茶の季節になって、3月末には各茶山で古茶樹の采茶がはじまって、みんなは忙しそうに茶山を行き来しはじめたけれど、自分はひとり部屋にこもったまま微生物の世話をしている。
今年の春のお茶の生産はあきらめることにした。
つくったら、圧餅などの加工をしなければならないし、保存熟成をしなければならないし、お茶を紹介する文章づくりや、試飲会もしなければならないし、それなりに時間を費やしてしまう。
そこに時間をかけていたら前にすすまない未解決の問題がある。
微生物発酵の問題。
生茶と微生物発酵
左: 一般的な生茶のプーアール茶
右: ちょっとだけ微生物発酵させた生茶のプーアール茶(実験中)
そもそもプーアール茶に興味を持ったのは、微生物発酵茶の優れた薬効に出会ったから。産地に住んで生産現場に立ち会っているのは、過去の(1980年代頃まで)のような上質なお茶が現在はなぜできないのか原因を探りたかったから。
この10年間ほどでいろいろわかってきて、最後に残る謎が微生物発酵の問題となった。
そう。いちばん最初に知りたかった謎の解明に10年もかかっている。
さらに10年かけないようにしたい。
解明したいのはこのふたつ。
1.生茶のプーアール茶は現在は微生物発酵茶ではないと分類されているが、本当のところは微生物発酵茶であった。だから越陳越香の長期熟成に魅力があった。
2.熟茶のプーアール茶は過剰に深く発酵した現在のようなものではなかった。浅い発酵に仕上げたものを長期熟成によって深く仕上げていた。だから味も体感も涼しい。
このふたつの仮説を、お茶の味と体感という現物をもって証明したい。
証明したら、この仕事はアガリ。めでたしめでたし。
ということで、まっすぐゴールに向かいたい。
今年の春茶の毛茶(プーアール茶の原料となる農家で仕上げた天日干し緑茶。)が仕上がるまで待てなくて、まずは手元にあった在庫の2014年の生茶の餅茶で麹菌の種付け実験からはじめた。
黒麹菌
種は黒麹菌。これは熟茶のための実験。
黒麹菌が熟茶づくりのスターターとなる菌であることが特定できている。
入り口はわかっている。その分、まだ入り口のはっきりしない生茶よりも解明は早いだろうと考えている。
生茶の謎は、まだスターターとなる菌種が特定できていないが、しかしこれも2種か3種ほど試したらはっきりすると思う。
微生物発酵
さて、熟茶の発酵。
2016年の秋にも自分で微生物発酵の実験をして失敗をして、サンプルをひとつも残さずに捨ててしまった。
失敗のいちばんの原因は、黒麹菌をしっかり培養できないまま次のステップに進んでいたから。
これがわかるのに2年もかかった・・・。
熟茶の発酵はいくつかの菌が関わって、その変化にいくつかの段階があるが、最初の段階で躓くと後に悪い影響を及ぼす。
例えば、味噌や醤油づくりにはまず麹をつくる。酒もそう。これに似ていて、熟茶づくりもまた黒麹をしっかり培養するところから始まる。
麹造りにヒントがあった。
後から思えばカンタンなことで、カビ系統の発酵食品づくりには常識だけれど、この仕組みに気付くのに時間がかかった。
西双版納には黒麹菌はそこらじゅうに居る。空気中にも飛んでいるし、茶葉や倉庫や設備や道具にも黒麹が付いていて、茶葉に水をかけるだけでカンタンに湧く。
微生物発酵
微生物発酵
微生物発酵
写真: 町の酸醤米線屋の発酵
しかし、湧くだけではダメで、黒麹の菌糸がしっかり茶葉の中心部にまで入り込んで、しかるべき仕事をしなければならない。そこに人の手の助けが要る。技術がある。
西双版納は熱帯雨林の地域なので雑菌の種類も多い。他の菌類に邪魔されないよう、なるべく黒麹が優勢に働く環境をあたえて育てる。茶葉ならではの形状や成分に合わせて、黒麹菌を上手に働かせるのが技術となる。
熟茶づくりの第一歩。
今回の実験では、確実に黒麹菌を育てたいので、最初に茶葉を蒸して殺菌することにした。
通常はしないことだが、1000年以上も歴史のある微生物発酵の黒茶づくりにおいてはむしろ定石。最初に熱で茶葉を殺菌するのは、優勢菌を選ぶのに有効な手段なのだ。
蒸す
水分を足すために蒸す前にちょっと茶葉に水をかけている。水分が増えたことで熱伝導率がよくなって蒸しの効率が良い。そして茶葉の中心にまで適度な水分がゆきわたる。
2.5キロの茶葉を24分間蒸して、茶葉の温度は96度に達して、ほとんどの菌類が死滅している・・・はず。そこに種麹を付ける。
温度も水分も空気の通り具合も、黒麹の好む環境をつくった。
蒸籠
微生物発酵
なぜ茶葉が2.5キロの量かというと、蒸籠の一段にちょうどだから。
蒸籠は、酒蔵が使っている麹蓋のように上下に通気があり、重ねることで保温も保湿もできて、麹が好む環境をつくれる。竹の素材は乳酸菌と仲が良くて抗菌力もある。
日本では麹部屋ごと温度と湿度を調整するが、それはしない。なぜならここは熱帯雨林の地域で、そんなことをしたら確実に雑菌天国となる。できるだけ蒸籠の中だけに環境をつくりたいが、実際は難しい。天気の変化の影響をモロに受ける。
ところが、茶葉は植物繊維の複雑な構造ゆえに保水力や保温力があるので、米や大豆ほど繊細な調整は要らない。それに、もしかしたら一日の気温や湿度の変化も良い影響がある・・・と考えている。
蒸籠発酵は、改良点はまだまだあるけれど、調整を重ねてゆけばあんがいいい仕事ができそうな気がする。
微生物発酵
写真: 黒麹菌発酵5日め、散水2回め1日後の茶葉
今回の実験の目的は、黒麹が優勢となって他の菌類があまり増殖できないような環境を探ること。
そして茶葉の中心部にまで菌糸が伸びるまでにどのくらいの時間を要するのかを知ること。
顕微鏡もなしでどうやってそれを確かめるのか?
そこは経験で、黒麹がちゃんと働くと顕微鏡を覗くよりももっとわかりやすい現象が現れる。
茶葉の匂い、お茶の味、お茶の色、葉底の質感の変化。など。
茶葉を加熱
茶湯
2.5キロ分×3回=7.5キロ分失敗してから、現在は2.5キロ×3回分が蒸籠に入っていて、この3回分はスタートを1日ずつずらしていて、今のところ安定している。
写真の試飲は2回めのやつで、黒麹菌発酵5日め、散水2回め1日後の茶葉。
酸っぱいお茶
1煎めはただの甘い汁。白ビールみたいな感じ。
2煎めからは、甘い香りに反してものすごく酸っぱい。3煎め4煎めまでが酸っぱい。レモンの酸っぱさ。5煎めからは甘味が出てきてバランスが取れてフレッシュなジュースみたいになる。
これでいいのだ。
黒麹菌がクエン酸をつくっているから酸っぱい。この酸でもって他の雑菌を寄せ付けなくする。衛生的に発酵できるようになる。ちなみに、クエン酸は中国語で”檸檬酸”と書く。
菌糸が茶葉の内部に入り込むから2煎めから4煎めまでが酸っぱくなる。うまく仕上がっている証拠。
体感は穏やかで、夜に飲んでも眠れなくなることはない。その逆で、貧血のようなクラっと目眩がして、眠気がする、いい感じの茶酔いがある。
一般的な熟茶のような身体に熱を持つことはない。生茶のように涼しいが、生茶のように寒いことはない。ガブガブ飲んでも大丈夫。
何日か飲み続けていると、肌のコンディションが良くなって、頬がスベスベツルツルになってきた。
5煎め
5煎めからはほんとうに美味しい。ずーっと飲んでいたくなるお茶。
この美味しさ、味のバランスから、昔の生茶も微生物発酵していたと確信するようになった。
茶湯の色に赤味が増すことの少ないのも、黒麹の活動した成果。通常なら5日間も茶葉を湿ったままにさせたら酸化して茶湯はオレンジ色に変色する。酸化を防止するなにかを黒麹がつくっているのだ。
葉底の茎
茎つぶす
葉底の茎の部分が指でカンタンに潰れるのも黒麹の仕業。しっかり菌糸が入って繊維の組織を破壊してくれている。
スタートしてから4日目に2回めの散水をしている。
散水したとたん黒麹の菌糸はいったん枯れる。どうやら水で窒息死するようなのだ。
なので、散水するまでの4日間がひと巡りになる。
例えば、春夏秋冬の季節が巡り、草の種が芽生えて根が生えて葉や茎が伸びて花が咲いて種をつけて枯れてゆく・・・というようなのと似た成長の過程がある。
黒麹菌自体は目に見えないが、茶葉に現れる変化を観察していると、なんとなくどの成長段階にいるのかがわかってくる。例えば、はじめは水で湿って柔らかい茶葉が、黒麹が繁殖してくるとやや硬くなってサクサクしてくる。茶葉同士がくっついてサクサクなまま全体がひとつにまとまってくる。
このひと巡りの終わりに、そのまま放っておくとどうも調子が悪くなることがわかってきた。黒麹の活動が鈍ると他の菌類が働きやすくなるからだろうか。
散水をして、新しいひと巡りをスタートさせるのか、それとも微生物の活動を止めて終わらせるのか、はっきりさせないといけないタイミング。
このタイミングが2016年のときにはわからずに失敗を繰り返していた。早すぎたり遅すぎたり。
散水後10時間め
写真: 2回めの散水、数間後の茶葉
2回めの散水だけで発酵を終わりにするのはありえない。
クエン酸が強すぎる。
クエン酸は、重曹で中和するとか、人工的に調整することもできるはずだが、散水を何度かしているうちに自然に落ちてくる。自然に調和したものを身体に取り入れたいから、薬品を使っての強制的中和はありえない。ただ、水の成分を考えて、市販のミネラルウォーターの中で適したのを選ぶのはアリかもしれない。
はい。
今日の授業はここまで。
いろいろありすぎて、書きすぎるとなにが重要なのかわからなくなるから、詰め込みすぎないようにしたい。
この数日の実験で、熟茶の味にかかわるもっと大きな発見があった。
これまでまったくノーマークだった菌がものすごく影響していることがわかった。
発酵のミステリー。

ひとりごと:
つづく。


茶想

試飲の記録です。

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