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熟茶づくり実験2019年 その2.

製造 : 2019年4月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県孟宋山小茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 微生物発酵途中
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 中国宜興の茶壺・グラスの杯・鉄瓶+炭火
渥堆発酵
渥堆発酵

お茶の感想:
メーカーの熟茶の微生物発酵は、数百キロから数トンもの大量の茶葉を数十センチから1メートルの山にして水を掛ける。これを渥堆発酵と呼ぶ。
茶葉を床にひろげて不衛生に見えるかもしれないが、実はこのやり方がもっとも衛生的で経済的で生産効率も良くて、理に適っているかもしれないと思う。
他のやり方を模索していろんな可能性を考えてみたけれど、一巡してここに戻ってきた。昔の人の知恵がある。
それでも、自分はもうちょっと蒸籠を使ってやってみようと思う。
蒸籠
蒸籠
蒸籠は一段ごとに分けられる。種類の違う茶葉を試したり、発酵の具合を調整したり、発酵のスタートに時間差をつけたり。実験にはこれが向いている。
蒸籠の欠点はその複雑な形状にある。
格子
発酵食品づくりはどんなものでも清潔を保って、人間の身体に優良な微生物だけを育てるようにしなければならない。
したがって、設備や道具の掃除洗濯の仕事量が半端なく多い。
ザッと見積もっても仕事の半分は掃除洗濯。12時間働いたら6時間分は掃除洗濯している感じ。
例えば、茶葉を包む布袋を洗うのは、まず布目に挟まって落ちにくいクズ茶葉をひとつひとつ指で取り除くところからはじまって、手洗いして、洗濯機で洗って、干して。煮沸消毒することもある。10枚の布袋を洗うとそれだけで1時間以上費やしている。
洗浄には水をたくさん使うし、洗濯機も回すし、煮沸にはガスの火も使う。
蒸籠は複雑な形状ゆえに掃除が面倒で、格子状になった隙間のカビのような色を歯ブラシで擦ってキレイにするのがたいへん。どうりで、麹蓋は底板が一筋だけ割れた単純なカタチになっているわけだ。
道具が多いほど、構造が複雑なほど、労働が増えて資源を消費する。
だから道具なしで床に茶葉を広げる渥堆発酵はカシコイ。シンプルで省エネ。
丁寧でキメ細かな仕事がぜんぜんできない西双版納の人でも大丈夫。
布袋
さて、前回の記事で「麹造りがヒントになる」という話をした。
熟茶づくりでいちばん大事なのは黒麹菌。
微生物発酵茶を分類するなら、プーアール茶の”熟茶”は黒麹菌による発酵茶であると定義してもよいくらい。
黒麹菌がいなければ、この地域で水を掛けて行う渥堆発酵は腐敗するだろう。
微生物発酵
茶葉の色が黒くなる
今回は茶葉を蒸して殺菌してから種麹を使って培養してみた。
その目的は、黒麹菌による茶葉の変化に注目したいから。
一般的には蒸したりしない、種麹を撒くこともない。
しかし、いつものように常温で茶葉に水を撒くところから、茶葉に付いている天然の菌類の培養からはじめたら、黒麹菌以外の別の菌もいっしょに育てるかもしれない。
いや、かもしれないじゃなくて、育てていたのだ。
そいつは”納豆菌”だった。
そう、納豆をつくる菌。この地域では豆鼓づくりに活躍している。
豆鼓
黒麹菌を育てる過程で、水分を多くしたり保温の温度を調整したりするうちに、なにか別の菌が湧くような現象に気がついた。それがキッカケとなっていろいろ調べていたら、納豆菌の特徴にすべてがあてはまる。まちがいないだろ。
右が納豆菌の繁殖した茶葉
右: 黒麹菌の葉底
左: 黒麹菌と納豆菌の混生の葉底
納豆菌は悪いヤツじゃない。
枯草菌の一種で、枯草菌は熟茶の微生物発酵に有効に働く微生物のひとつで、文献にもはっきり書いてある。でも、納豆菌とは書いていなかったから、お茶の味には関わらないと考えてノーマークだった。
とんでもない。納豆菌と知ってからは、発酵中の茶葉にも、お茶を淹れて飲んでも、その匂いや味の特徴を見つけられる。黒麹や酵母の醸す風味と同等に主張している。
納豆菌の他にクモノスカビやケカビも関与しているが、今のところお茶の味との関係は不明。後にひとつひとつ解明してゆく。
温州人の熟茶
温州人の茶友のこの写真の白いのは、納豆菌か、もしくは納豆菌の繁殖した環境で茶葉の表面につくケカビだったのかもしれない。黒麹菌の優勢な環境下ではこういうふうにならないから。
納豆味の熟茶が市場にあふれている。
もちろん、納豆味オンリーではない。黒麹や酵母や乳酸など混生状態から生み出される複雑な味に納豆菌特有の風味が混ざっているだけ。納豆は大豆で熟茶は茶葉。しかも熟茶は乾燥していて熟成もすすんでいる。だからお茶を飲んでコレが納豆味とはすぐにわからないかもしれない。
1990年代後半からの熟茶に納豆味が増しているが、ずいぶん長い間みんながこの味に慣れ親しんでいる。
この状況を逆手に取って、「黒麹菌の単独発酵に成功しました」と言ってお茶を売る業者が出てきそうだが、そいつは嘘つきだ。言葉の印象を利用して無知な消費者を騙す手口である。
茶葉という複雑な組織形状と、成分構成と、地域の気候風土と、良性な菌類の混生状態にもってゆくしか熟茶をつくる手はないだろう。
それに、もしもだが、たとえ黒麹菌が単独で茶葉を発酵させても美味しくはならないだろう。
バランスが問題。
茶友らの試みている熟茶づくりに違和感を感じていた、アンモニア臭・糠味・からすみ味、これらは黒麹菌がしっかり繁殖する間もなく納豆菌が繁殖した結果である。
麹造りに「スベリ麹」という言葉があるが、それそのものである。
熟茶の発酵は納豆菌も混生状態だからいいのでは?と思うかもしれないが、そうじゃない。茶葉がスベリ麹になるということは、黒麹菌の菌糸がしっかり茶葉の内部まで潜り込んでないということ。表面にだけ繁殖しているということ。内部まで潜り込めないのは茶葉が含んだ水分が多すぎて黒麹菌が呼吸できないから。水の中にも強い菌類だけが茶葉の内部に繁殖する。例えば、納豆菌とか酵母とか、危ないケースでは他の雑菌とか。
発酵食品は、優良な微生物により成分を変えて栄養価を高めるよりも先に、まずは優良な菌類が悪い菌類を寄せ付けなくして、腐敗を防ぐ環境をつくるところからはじまる。
ここでの黒麹菌の仕事は2つある。
1つめは茶葉のミクロの繊維の組織構造を変えること。
ちじれた茶葉
写真のように茶葉がだんだん縮れてくる。菌糸が深く潜り込んで茶葉の繊維をほぐすから。
茶葉は米や大豆に比べてずっと給水力のある組織構造なので、加水の量をちょっとでも間違うと内部は水浸しである。
スポンジに例えるとちょうどわかりやすい。
スポンジ細かい
スポンジ粗い
キメの細かな面は水を吸うと内側に空気がなくなる。
キメの粗い面は水を吸ってもサッと切れて空気が通る。
渥堆発酵はおよそ1ヶ月間に4回から5回は水をかけて加水するが、基本的に好気性の細菌が活躍するから、茶葉の通気を良くて微生物が呼吸しやすい環境を作ってやらなければならない。
黒麹菌の菌糸が茶葉の繊維をほぐして、キメの粗いスポンジのようなスカスカの状態をつくって、良好な発酵となる。
2つめは成分構成を変えること。
いちばんわかりやすいのはクエン酸。
クエン酸
クエン酸
電熱ポットに付いていた洗浄剤のクエン酸。中国語で檸檬酸。
箱にはレモンの写真があるが、レモン果汁からつくられたのではなくて、芋かなにかを黒麹菌で発酵させてつくったはずだ。
クエン酸は水垢を取り除く効果もあるし、アンモニアを分解して消臭する効果もある。
そう。納豆菌がつくるアンモニア臭もクエン酸が分解するはずなので、アンモニア臭が残る茶友らの熟茶は黒麹菌がしっかりクエン酸をつくっていないとことになる。
レモンや梅干し。これらクエン酸由来のすっぱい味と同じように、渥堆発酵の中盤までの熟茶はむちゃくちゃ酸っぱい。ちょっと苦い。この味が黒麹菌がしっかり繁殖しているかどうかの指標のひとつになっている。
クエン酸の強い酸でもって他の雑菌を寄せ付けなくして衛生的な環境をつくる。
その他にも、麹菌は抗生物質をつくって抗菌することが知られているし、また、”塩基性”と呼ぶのかな?詳しくはないが、渥堆発酵中の湿った茶葉を酸化させずに新鮮を保つこともしている。
黄色く明るい茶湯
渥堆発酵中の茶湯の色は明るい黄色。長い期間湿ったままの茶葉なのになかなか赤く変色しない。
黒麹菌がまずは環境をつくる。
その第一歩というか、黒麹菌にちょうど良くて他の菌にあまり良くない環境を与える発酵のスタートでいちばん大事なのが、茶葉の浸水。というか茶葉への散水。
このちょうどの頃合いを見つけるのに、また数キロの茶葉を失敗した。わざと水を多くしたり少なくしたりして失敗する頃合いを探った。つもりだ。
茶葉へ散水
写真は散水してから茶葉に水がなじむのを待っているところ。数時間待ってから蒸す。
酒造りの米の浸水ほど微妙な水分調整は要らないけれど、その逆に茶葉の形状や大きさが整わないことによる吸水ムラを考慮しなければならない。
黄片と新芽若葉
左: 黄片
右: 若葉
同じ時期に採取された茶葉だが、カタチも質も異なる。
柔らかい若葉が育ちすぎて硬くなった”黄片”と呼ぶやつは水をたくさん吸う。そのかわり繊維が太くて大きく膨れて、茶葉と茶葉のスキマをつくりやすい。通気が良い。柔らかい若葉は水を吸う量が少ないかわり茶葉と茶葉のスキマをつくりにくい。通気が悪い。
黄片の通気が良いからと言って水を多く吸わせると、発酵により発熱してきたときに厄介。撹拌しようが広げようが、茶葉がたくさん水を含んでいるかぎりなかなか熱が散ってくれない。40度を超えて黒麹菌の活動できない時間が長くなる。
柔らかい若葉は水を吸う量が少なくても、上に紹介したスポンジのキメの細かな面のように、内部に空気が少なくなりがち。かといって水をもっと減らすと黒麹がうまく繁殖しない。
茶葉の内側までまんべんなく水分と空気が入りつつ、茶葉と茶葉のスキマも適度にできる。
そんな水の加減。
水分量計測
温度や水分を計るのに便利な機器があるが、もっとも頼りになるのは目とか鼻とか指とか。今回の黒麹菌を培養する過程ではとくに匂いの教えてくれることが多くあった。
日本の麹づくりに関するサイトや動画がたくさんあって、ネットで検索をしてずいぶん参考にした。(みなさまありがとうございます。)
それらが言うには、うまく麹が育つと栗のような甘い香りがするらしい。コレ、熟茶の発酵にも共通している。もちろん米じゃなくて茶葉なので茶葉特有の香りもあるが、栗の香りには麹がつくる成分に共通したものがあるということ。発酵の状態が現れているわけだ。
西双版納で多く作られている黒糖の匂いにも似ている。
「焼き栗のよう」と表現されているのもあったが、茶葉の場合は”焼き栗香”が出たらヤバイ。水が多すぎ。ということも失敗を重ねてわかってきた。
今回問題視している納豆菌についても匂いのサインがヒントになっている。
ちなみに、いくら黒麹菌がうまく増殖してクエン酸をたくさんつくっても、納豆菌は平気な様子。納豆菌だけじゃない。酵母菌も乳酸菌もぜんぜん気にしない様子。仲が良いのだなこの人達。
納豆菌の沸くサインは栗の匂いに醤油っぽい匂いが混ざるところから始まる。この時点ではまだバランスの良い共存。このバランスのままゆけば良い熟茶に仕上がる。
納豆菌の茶葉
納豆菌の繁殖がさらにすすんでしまうと、例えばナマコとかホヤのような潮の匂いがしてくる。
こうなるともう黒麹菌は劣勢になっている。熟茶づくり的にはアウトなので自分はマンションの敷地の庭の植物たちの肥やしにしているが、茶友たちはこの味が好きな熟茶を知らない人達を探して売っている・・・。
納豆菌の増殖までゆかなくても、通気が悪いと乳酸菌が騒ぎ出す。これにも匂いのサインがあって、いわゆる漬物のあの匂いがかすかに出てくる。
ほんのちょっとの環境の差。
カンタンに言うと黒麹菌はやや涼しくて通気が良いのを好む。温度30度くらいで、指で茶葉を丸めて固めてもくっつかないくらいの水分量。
蒸籠を使いはじめたときに一度、いや、二度失敗しているが、その原因は蒸籠の蓋にあった。
蒸籠は蒸すためにつくられているので、その蓋は竹編みの2重で油紙を挟んだ密封構造になっている。通気がない。
そのことに気付かなくて、いちばん上の段の蓋のすぐ下の茶葉が蒸れてしまった。発熱して39度まで上がってしまった。これに納豆菌と乳酸菌が湧いていた。
蓋
蓋
それで蓋を竹編みの笊に変えた。
ちょっとのバランスで優勢となる菌が変わる。
2度めの散水からは酵母の増殖が確かめられる。
酵母は、水の中では糖をアルコールに変えて、熟茶づくりにおいては香気成分に華を添える。水分が多いときに酵母がそのような反応をして、スイカとかマンゴーとかバナナとか甘いフルーツの香りを放つ。サイダーのような甘い香りは酵母の出した二酸化炭素によるもの。
当初はこれを喜んでいたけれど、渥堆発酵を知るほどにキケンなサインとなってきた。
この香りが出てくるということは茶葉の持つ水分が多すぎるということと、通気が悪いためで、まもなく納豆菌が湧いてくる。
茶葉が水分を短時間で吐き出して、適度な通気をつくって、栗のような黒糖のような大人しく甘い香りに戻ってほしい。
ところが、なぜかそうならないことがある。
茶葉が水分を持っていて、気温よりも4度から5度も温かい状態ならば、水は蒸発しやすいはず。天日干しの洗濯物のように水が逃げるはず。
ところがそうならないで茶葉はむしろ水分をどんどん吸収するかのような、一般常識が通じないヘンな現象が起こる。
はい。
今日の授業はこれで終わり。

ひとりごと:
長いな。でもまだ入り口。
つづく。

熟茶づくり実験2019年 その1.

製造 : 2019年4月
茶葉 : 雲南省西双版納州漫撒山丁家老寨生態茶2014年春茶
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 微生物発酵途中
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 中国宜興の茶壺・グラスの杯・鉄瓶+炭火
餅茶崩し
餅茶崩し

お茶の感想:
西双版納に戻ってすぐに茶葉の保存部屋を整理した。
在庫の茶葉をすべて追い出して、微生物発酵茶の実験のためだけの部屋となった。
春茶の季節になって、3月末には各茶山で古茶樹の采茶がはじまって、みんなは忙しそうに茶山を行き来しはじめたけれど、自分はひとり部屋にこもったまま微生物の世話をしている。
今年の春のお茶の生産はあきらめることにした。
つくったら、圧餅などの加工をしなければならないし、保存熟成をしなければならないし、お茶を紹介する文章づくりや、試飲会もしなければならないし、それなりに時間を費やしてしまう。
そこに時間をかけていたら前にすすまない未解決の問題がある。
微生物発酵の問題。
生茶と微生物発酵
左: 一般的な生茶のプーアール茶
右: ちょっとだけ微生物発酵させた生茶のプーアール茶(実験中)
そもそもプーアール茶に興味を持ったのは、微生物発酵茶の優れた薬効に出会ったから。産地に住んで生産現場に立ち会っているのは、過去の(1980年代頃まで)のような上質なお茶が現在はなぜできないのか原因を探りたかったから。
この10年間ほどでいろいろわかってきて、最後に残る謎が微生物発酵の問題となった。
そう。いちばん最初に知りたかった謎の解明に10年もかかっている。
さらに10年かけないようにしたい。
解明したいのはこのふたつ。
1.生茶のプーアール茶は現在は微生物発酵茶ではないと分類されているが、本当のところは微生物発酵茶であった。だから越陳越香の長期熟成に魅力があった。
2.熟茶のプーアール茶は過剰に深く発酵した現在のようなものではなかった。浅い発酵に仕上げたものを長期熟成によって深く仕上げていた。だから味も体感も涼しい。
このふたつの仮説を、お茶の味と体感という現物をもって証明したい。
証明したら、この仕事はアガリ。めでたしめでたし。
ということで、まっすぐゴールに向かいたい。
今年の春茶の毛茶(プーアール茶の原料となる農家で仕上げた天日干し緑茶。)が仕上がるまで待てなくて、まずは手元にあった在庫の2014年の生茶の餅茶で麹菌の種付け実験からはじめた。
黒麹菌
種は黒麹菌。これは熟茶のための実験。
黒麹菌が熟茶づくりのスターターとなる菌であることが特定できている。
入り口はわかっている。その分、まだ入り口のはっきりしない生茶よりも解明は早いだろうと考えている。
生茶の謎は、まだスターターとなる菌種が特定できていないが、しかしこれも2種か3種ほど試したらはっきりすると思う。
微生物発酵
さて、熟茶の発酵。
2016年の秋にも自分で微生物発酵の実験をして失敗をして、サンプルをひとつも残さずに捨ててしまった。
失敗のいちばんの原因は、黒麹菌をしっかり培養できないまま次のステップに進んでいたから。
これがわかるのに2年もかかった・・・。
熟茶の発酵はいくつかの菌が関わって、その変化にいくつかの段階があるが、最初の段階で躓くと後に悪い影響を及ぼす。
例えば、味噌や醤油づくりにはまず麹をつくる。酒もそう。これに似ていて、熟茶づくりもまた黒麹をしっかり培養するところから始まる。
麹造りにヒントがあった。
後から思えばカンタンなことで、カビ系統の発酵食品づくりには常識だけれど、この仕組みに気付くのに時間がかかった。
西双版納には黒麹菌はそこらじゅうに居る。空気中にも飛んでいるし、茶葉や倉庫や設備や道具にも黒麹が付いていて、茶葉に水をかけるだけでカンタンに湧く。
微生物発酵
微生物発酵
微生物発酵
写真: 町の酸醤米線屋の発酵
しかし、湧くだけではダメで、黒麹の菌糸がしっかり茶葉の中心部にまで入り込んで、しかるべき仕事をしなければならない。そこに人の手の助けが要る。技術がある。
西双版納は熱帯雨林の地域なので雑菌の種類も多い。他の菌類に邪魔されないよう、なるべく黒麹が優勢に働く環境をあたえて育てる。茶葉ならではの形状や成分に合わせて、黒麹菌を上手に働かせるのが技術となる。
熟茶づくりの第一歩。
今回の実験では、確実に黒麹菌を育てたいので、最初に茶葉を蒸して殺菌することにした。
通常はしないことだが、1000年以上も歴史のある微生物発酵の黒茶づくりにおいてはむしろ定石。最初に熱で茶葉を殺菌するのは、優勢菌を選ぶのに有効な手段なのだ。
蒸す
水分を足すために蒸す前にちょっと茶葉に水をかけている。水分が増えたことで熱伝導率がよくなって蒸しの効率が良い。そして茶葉の中心にまで適度な水分がゆきわたる。
2.5キロの茶葉を24分間蒸して、茶葉の温度は96度に達して、ほとんどの菌類が死滅している・・・はず。そこに種麹を付ける。
温度も水分も空気の通り具合も、黒麹の好む環境をつくった。
蒸籠
微生物発酵
なぜ茶葉が2.5キロの量かというと、蒸籠の一段にちょうどだから。
蒸籠は、酒蔵が使っている麹蓋のように上下に通気があり、重ねることで保温も保湿もできて、麹が好む環境をつくれる。竹の素材は乳酸菌と仲が良くて抗菌力もある。
日本では麹部屋ごと温度と湿度を調整するが、それはしない。なぜならここは熱帯雨林の地域で、そんなことをしたら確実に雑菌天国となる。できるだけ蒸籠の中だけに環境をつくりたいが、実際は難しい。天気の変化の影響をモロに受ける。
ところが、茶葉は植物繊維の複雑な構造ゆえに保水力や保温力があるので、米や大豆ほど繊細な調整は要らない。それに、もしかしたら一日の気温や湿度の変化も良い影響がある・・・と考えている。
蒸籠発酵は、改良点はまだまだあるけれど、調整を重ねてゆけばあんがいいい仕事ができそうな気がする。
微生物発酵
写真: 黒麹菌発酵5日め、散水2回め1日後の茶葉
今回の実験の目的は、黒麹が優勢となって他の菌類があまり増殖できないような環境を探ること。
そして茶葉の中心部にまで菌糸が伸びるまでにどのくらいの時間を要するのかを知ること。
顕微鏡もなしでどうやってそれを確かめるのか?
そこは経験で、黒麹がちゃんと働くと顕微鏡を覗くよりももっとわかりやすい現象が現れる。
茶葉の匂い、お茶の味、お茶の色、葉底の質感の変化。など。
茶葉を加熱
茶湯
2.5キロ分×3回=7.5キロ分失敗してから、現在は2.5キロ×3回分が蒸籠に入っていて、この3回分はスタートを1日ずつずらしていて、今のところ安定している。
写真の試飲は2回めのやつで、黒麹菌発酵5日め、散水2回め1日後の茶葉。
酸っぱいお茶
1煎めはただの甘い汁。白ビールみたいな感じ。
2煎めからは、甘い香りに反してものすごく酸っぱい。3煎め4煎めまでが酸っぱい。レモンの酸っぱさ。5煎めからは甘味が出てきてバランスが取れてフレッシュなジュースみたいになる。
これでいいのだ。
黒麹菌がクエン酸をつくっているから酸っぱい。この酸でもって他の雑菌を寄せ付けなくする。衛生的に発酵できるようになる。ちなみに、クエン酸は中国語で”檸檬酸”と書く。
菌糸が茶葉の内部に入り込むから2煎めから4煎めまでが酸っぱくなる。うまく仕上がっている証拠。
体感は穏やかで、夜に飲んでも眠れなくなることはない。その逆で、貧血のようなクラっと目眩がして、眠気がする、いい感じの茶酔いがある。
一般的な熟茶のような身体に熱を持つことはない。生茶のように涼しいが、生茶のように寒いことはない。ガブガブ飲んでも大丈夫。
何日か飲み続けていると、肌のコンディションが良くなって、頬がスベスベツルツルになってきた。
5煎め
5煎めからはほんとうに美味しい。ずーっと飲んでいたくなるお茶。
この美味しさ、味のバランスから、昔の生茶も微生物発酵していたと確信するようになった。
茶湯の色に赤味が増すことの少ないのも、黒麹の活動した成果。通常なら5日間も茶葉を湿ったままにさせたら酸化して茶湯はオレンジ色に変色する。酸化を防止するなにかを黒麹がつくっているのだ。
葉底の茎
茎つぶす
葉底の茎の部分が指でカンタンに潰れるのも黒麹の仕業。しっかり菌糸が入って繊維の組織を破壊してくれている。
スタートしてから4日目に2回めの散水をしている。
散水したとたん黒麹の菌糸はいったん枯れる。どうやら水で窒息死するようなのだ。
なので、散水するまでの4日間がひと巡りになる。
例えば、春夏秋冬の季節が巡り、草の種が芽生えて根が生えて葉や茎が伸びて花が咲いて種をつけて枯れてゆく・・・というようなのと似た成長の過程がある。
黒麹菌自体は目に見えないが、茶葉に現れる変化を観察していると、なんとなくどの成長段階にいるのかがわかってくる。例えば、はじめは水で湿って柔らかい茶葉が、黒麹が繁殖してくるとやや硬くなってサクサクしてくる。茶葉同士がくっついてサクサクなまま全体がひとつにまとまってくる。
このひと巡りの終わりに、そのまま放っておくとどうも調子が悪くなることがわかってきた。黒麹の活動が鈍ると他の菌類が働きやすくなるからだろうか。
散水をして、新しいひと巡りをスタートさせるのか、それとも微生物の活動を止めて終わらせるのか、はっきりさせないといけないタイミング。
このタイミングが2016年のときにはわからずに失敗を繰り返していた。早すぎたり遅すぎたり。
散水後10時間め
写真: 2回めの散水、数間後の茶葉
2回めの散水だけで発酵を終わりにするのはありえない。
クエン酸が強すぎる。
クエン酸は、重曹で中和するとか、人工的に調整することもできるはずだが、散水を何度かしているうちに自然に落ちてくる。自然に調和したものを身体に取り入れたいから、薬品を使っての強制的中和はありえない。ただ、水の成分を考えて、市販のミネラルウォーターの中で適したのを選ぶのはアリかもしれない。
はい。
今日の授業はここまで。
いろいろありすぎて、書きすぎるとなにが重要なのかわからなくなるから、詰め込みすぎないようにしたい。
この数日の実験で、熟茶の味にかかわるもっと大きな発見があった。
これまでまったくノーマークだった菌がものすごく影響していることがわかった。
発酵のミステリー。

ひとりごと:
つづく。

南糯山神青餅2011年 その8.

采茶 : 2010年秋茶 2011年春茶
茶葉 : 雲南省西双版納南糯山老Y口寨古樹
圧餅 : 2011年12月
茶廠 : 農家+孟海の茶廠
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 西双版納 プラスチックバッグ密封・陶器の壺
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 白磁の蓋碗・グラス杯・鉄瓶+炭火
炭火

お茶の感想:
前回のつづき。
+【南糯山神青餅2011年 その7.】
それから4ヶ月経っている。
この4ヶ月間は2つとも陶器の壺に眠っていた。
南糯山神青餅2011年
左: 真空パック(4ヶ月前まで)
右: 熟成壺
餅面の色の差がなくなったような気がする。前回は熟成壺のほうが明らかに黒っぽかった。
西双版納は冬が暖かい。冬を越したこの4ヶ月間の平均気温は22度くらいあったのではないかな。
多くのお茶ファンはこのほうが熟成に向いていると考えているが、自分はその逆と考えている。四季がはっきりしていて、冬はしっかり寒いほうがよい。
北京の茶友が「北京で寝かせたのはダンボールの中であろうが陶器の壺であろうが、乾燥しすぎて変化しないどころか乾いた口感と喉ごしになって具合が悪い。」と言うのだが、それはマンションの一室で保存しているからだろう。北京の冬は北海道くらい寒いけれど、温水管のセントラルヒーティングで建物ごと暖められるから乾燥が激しい。
これでは冬が無いのと同じ。
冬のしっとりした空気に包まれつつも密封保存できるのが理想と考えているので、常温・常湿の保てる場所が欲しいが、北京の中心部に住んでいる一般人にそんな場所は少ない。
西双版納はというとこれもマンションの一室で部屋を密閉しているので乾燥している。湿度は55度くらい。
ここではあまり良い熟成が期待できないと考えて、今後はここでの長期保存はしないつもりでいる。
飲み比べ
飲み比べ
飲み比べ
葉底
左: 4ヶ月前まで真空パック
右: 熟成壺
1-7煎くらいまで飲んだが、その差はほとんどなし。
あえて言うと熟成壺のほうが若干甘い。でも、葉底を見ると熟成壺のほうが茎の部分が大いので、そのせいだったのかもしれない。
前回の記事では煎を進めるほどに差がひらくと書いていたが、それもほとんどなし。あえて言うと熟成壺のほうが若干深みがある。
4ヶ月で差が縮まった結果となった。
生茶にしても熟茶にしても西双版納で長期熟成させるのがどうも思わしい結果にならないということで、上海や日本に移しているわけだが、移してから一年も経つと風味が復活したような、精彩を取り戻したような、そんな気がしていたが、錯覚ではなくて実際になにかが上書きされているのかもしれない。
このテストの結果にしても、最後の4ヶ月間の保存環境がなにかを上書きしたようなカタチになっている。
熟成8年目のお茶で、この2つの違いは8年のうちのおよそ1年半くらいの期間だけで、しかも真空パックしていたか、わずかな通気を許していたかだけの差しかないから、4ヶ月もあれば十分にその差が埋まるということだろうが、自分はむしろこの4ヶ月で埋まる変化の大きさのほうが気になる。

ひとりごと:
多少の上書きで味の印象が変わってしまうのなら、熟成味が完成しているとは言えないよな。

下関銷法沱茶90年代 その7.

製造 : 1998年頃
茶葉 : 雲南省臨滄茶区大葉種喬木晒青茶
茶廠 : 下関茶廠(国営時代)
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 沱茶 240g
保存 : 香港ー広州ー上海 紙包みのまま
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 信楽土の茶壺・グラス杯・鉄瓶・炭火
鉄瓶
西双版納の茶机
信楽土の茶壺

お茶の感想:
このお茶の微生物発酵の具合が今はっきりとわかる。
+【下関銷法沱茶90年代】
下関銷法沱茶90年代
熟茶は、昔と現在とでは見た目の製法は同じようだが中身が違っている。
現在の製法のこのお茶と飲み比べた。
+【版納古樹熟餅2010年】
熟茶
左: 下関銷法沱茶90年代
右: 版納古樹熟餅2010年
おそらくメーカーの技術者たちはこの微生物発酵の違いに気付いていない。
同じようにしているし、美味しく飲めるようにできているし、よく売れているから。考えもしない。
しかし、プーアール茶の魅力の一つである20年・30年と熟成させることを前提とするなら、昔の製法が良い。
味の問題ではない。だから個人の趣味の問題ではない。
長期熟成で変化する成分の量と質の問題。栄養価値と言ってもいいし、薬効価値と言っていいし、ちゃんと計れるカタチで違いを証明できるはずの問題。
熟茶2種飲み比べ
6煎め
左: 下関銷法沱茶90年代
右: 版納古樹熟餅2010年
茶湯の色だけを見たらほとんど同じ。
1煎めから6煎めくらいまですすめても色の差はほとんどない。
しかし、『下関銷法沱茶90年代』は約20年の熟成を経てこの色にたどり着いたのであって、1998年頃のできたての時はもっと黄色かったはずで、味も熟茶になりきらない生茶のような要素が残っていたはず。
それでいて発酵度は十分であった。
20年後のお茶の味がそれを証明している。
微生物発酵の”発酵”は、微生物が生きて活動している間だけのものではない。微生物が活動を止めても、すでに大量の酵素を作り出して茶葉の表面や内部に残している。この酵素による成分変化が続く限り、”発酵”という現象は終わっていない。
製品が出荷されて乾燥を保った倉庫の中では微生物は活動しない。
それでも、空気中のほんのわずかな水分や気温や気圧の変化によって酵素は化学反応して発酵のつづきをしている。
酵素は生物ではないので、栄養を消費しない。排泄しない。
とても都合の良いカタチで茶葉の成分を変化させてくれる。
現代の製法は酵母の活動を過剰にさせてほんの3週間ほどで20年の結果に到達する。
しかし、酵母は生物なので消費する。排泄する。熟茶の渥堆発酵にかかわる主要な微生物の中で、とくに酵母はものすごい勢いで活動してカロリーを燃焼させる。それによって味には現れない栄養分を大量に失っている。これが、後の熟成に影響する。
この2つのお茶を飲み比べたら、味にその違いがはっきりと現れている。
葉底2種
左: 下関銷法沱茶90年代
右: 版納古樹熟餅2010年
『下関銷法沱茶90年代』の葉底には、成長して硬い繊維の茶葉が多く混ざっていて、そこは酵母が活動しにくい場であるせいか、あまり黒っぽく変色していない。生茶のような明るい色を残している。
葉底下関
また、指で葉底をつまんだときの感触に違いがある。
葉底下関
葉底くっつき
上: 下関銷法沱茶90年代
下: 版納古樹熟餅2010年
『下関銷法沱茶90年代』は圧延でカチカチになってはいるが、煎じた後の葉底を指でつまむとハラハラポロポロと散らばりやすい。それに対して『版納古樹熟餅2010年』は粘着しているところが多く散らばりにくい。老茶頭にはなっていなくても、そうなる要素が十分にあって、つまり酵母発酵過剰になりやすい状態である。
ワインとか日本酒の醸造で「完全発酵」という言葉を聞く。
自分はお酒に詳しくないが、比較的近年の言葉だと思う。
完全発酵を意識してつくられたワインや日本酒を飲んでみて、実は、あまり魅力的がないと感じていた。
酵母で糖からアルコールをつくるのがお酒なので、不完全発酵のものは残糖の味であったり濁った味であったりで、透明感に欠ける。しかし、なにか物足りなさを感じる。味が濃いとか薄いとかじゃなくて、生命感が無いというか、イキイキノビノビしていない感じ。
もしかしたらこれもそうで、微生物が生きて活動している期間だけがお酒づくりで言うところの発酵という考え方でつくられていて、微生物が死んでからの熟成期間の変化を計算に入れていないのかもしれないな。
「完全発酵」・・・聞こえがいい言葉だから、知識の罠にハマりやすい。

ひとりごと:
信楽土だがチェコのマルちゃん作。
マルティン・ハヌシュ
素朴に見えるが細部にまで計算がゆきとどいている。
熱の反射が良い。
薄造りで軽い。
水の流れが美しい。
土の性質を活かして、これにしかない良さが生まれている。

7572七子餅茶80年代 その1.

製造 : 1980年代末期・1988年
茶葉 : 雲南省臨滄市双江県孟庫大雪山茶区晒青毛茶
茶廠 : 双江孟庫戎氏茶叶有限公司
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 餅茶350gサイズ崩し
保存 : 香港−広州ー上海
茶水 : 農夫山泉
茶器 : 宜興の茶壺・景徳鎮の茶杯・鉄瓶+炭火
良くない方
良い方
良くない方
良い方

お茶の感想:
上海の友人の店に立ち寄ったらこのお茶の飲み比べができた。
1980年代の国営時代の孟海茶廠の熟茶。
店主の言うには、片方が良くて片方は良くないらしい。
ほぼ同じ年代の、同じメーカーの、同じ茶号(7572)なのに。
参考までに、7572は初代だけは生茶。
+【早期7572青餅70年代】
その後の7572はすべて熟茶で、そのうちのひとつは紹介したことがある。
+【黄印7572七子餅茶99年】
何年か前の入手時ですでに6000元(10万円くらい)したらしいが、個人的にはそんなに偉いとは思わない。今になって言えることだが、現在流通してる熟茶のほとんどがこれに似せた発酵の仕上げ方になったので、よくあるタイプの味になったから。
炭火
ただ、「良いのと良くないの」は気になる。どこが違うのだろうか。
7572の後ろの「7」が茶葉の等級(成長具合)を現しているが、これは品質を判別する指標にはならない。自然な育ちの茶葉をあの山この山から収集するのでサイズが合うはずがないし、山が違えば品種特性もちょっとずつ異なるのだから、茶葉の内容成分や繊維の質も違って、微生物発酵の具合も違って、その結果味も異なる。
今回飲み比べた2つがまさにそうで、餅面の茶葉の質が違う。
7572七子餅茶80年代
7572七子餅茶80年代
上: 良くない方
下: 良い方
写真ではわかりにくいが、良くない方のは茶葉が比較的小さく柔らかいせいか餅身がカッチリ締まっている。良い方のは茶葉が大きく繊維が硬いせいか餅身の締りが悪くてゆるい感じ。
微生物発酵の黒麹と酵母の活動のバランスを知ってからは、柔らかい小さな新芽・若葉の多いのは嫌な予感がする。
現在の市場はそこを勘違いしていて、生茶の上等と同じように熟茶にも柔らかい新芽・若葉のほうがモテている。
しかし、微生物発酵は酵母が優勢となってしまってバランスが悪い。
良くない方
良い方
上: 良くない方
下: 良い方
水色にもその違いが現れている。
黒っぽくなる原因ははっきりとわからないが、微生物発酵時に酵母が優勢となりすぎて、高温になったり、糖などのカロリーを過剰に消費したり、代謝物がたくさんできたことで、そうなったのだろうなと想像する。
味にはもっと大きく違いが現れている。
良くない方のは、まず口感がネットリしている。甘ったるい。穀物っぽい暑苦しさがある。
良い方のは、口感がサッパリ。甘いけれど消えが早く、酸味や苦味とのバランスも絶妙。そして長年熟成によって醸された薬草のような浄化の香りがある。これが生茶の年代モノに共通している。
体感も違う。
良い方は、身体の芯が温まる。喉が潤う。
良くない方は、皮膚が熱くなって、喉が渇く。
葉底
左: 良い方
右: 良くない方
良くない方の葉底は柔らかい茶葉の粘着力で老茶頭のようにくっついてほぐれにくい。渥堆発酵時にこの性質が酵母発酵の過剰を引き起こす。
西双版納の熟茶づくりをしている茶友にこのことを伝えたら、こう言われた。
「良い方のは硬くて大きな茶葉が多くて、出来たてのときは不完全発酵なところがところどころ残っていて、甘さが足りないし、美味しくないのでは?」
そう。そのとおりと思う。
たぶんそのほううがいいのだ。
酵母発酵を完全にさせようとして栄養を消費されてしまって、長期熟成の変化に伸びしろがなくなるよりは、出来たてのときの美味しさがそこそこで結構。酵母が優勢になっていなくても、その前後で黒麹菌などがしっかり仕事をして酵素などの良い成分を茶葉にたくさん残しているから、じわじわ時間をかけて成分変化が進んだほうが栄養価を減らさないで済む。
昔の人はそういうことを経験的に知っていたに違いない。

ひとりごと:
昔の人は賢くて今の人はアホ。
アホが飲める良茶なし。

祈享易武青餅2018年 その2.

製造 : 2018年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県漫撒山一扇磨
茶廠 : 上海廚華杯壷香貿易有限公司監製
工程 : 生茶のプーアール茶
形状 : 餅茶357gサイズ
保存 : 上海密封
茶水 : 京都の地下水
茶器 : 宜興紅泥の茶壺・チェコ土の杯・鉄瓶+炭火
炭火
茶器

お茶の感想:
前回の記事の『刮風生態青餅2018年』と比べたくて、このお茶を飲んだ。
サンプル最後の1回分。
+【祈享易武青餅2018年 その1.】
茶葉
1・2煎めは旬のきめ細かな水質、味は透き通っていながら密度の濃い充実感があるが、3煎めからの水質が粗くなる。舌にザラッとして渋味を感じる。4煎めからは茎や育った葉の厚いところに隠れていた甘味やとろみが出てきてまろやかになるので、粗っぽさは緩和されるけれど・・・。
1煎め
2煎め
このお茶の感じに似ている。
+【刮風古樹青餅2018年・晩春 その1.】
そう。
采茶のタイミングがちょっと遅めなのだ。
その観点で注意して見たら、茶葉の色やカタチの様子もちょっと似ている。
采茶のタイミングを遅くすると茶葉は成長する。生産量を増やすためにそうしているのか、なんらかの考え方があるのか、わからないけれど、このお茶のポジションとしてはどうかな。
3煎め
葉そこ
葉底の繊維も早春にしてはちょっと硬い。
収穫を減らして生産量を減らして価格を上げて、水質をキメ細かく舌触り良くしたところで、このお茶を買う人にその意向が伝わるだろうか?
伝わらないから質をそこそこにしてやさしい価格にして喜んでもらう。
伝わらなくても正当な価格と質の上等を主張する。
質を上げるために生産量を3分の1に減らして価格を3倍にしてバランスをとったとしたら、その結果は、買う人が少ない上に買ってその質を知ることのできる人も少ない・・・ということになる。
仕事にコストパフォーマンスとか社会的な存在価値とかを求めたらできなくなる。
そんなこと気にしない。社会性なんて屁とも思わないひとりぼっち向きの仕事だよな。

ひとりごと:
ぼっちで良かった・・・。

刮風生態青餅2018年 その4.

製造 : 2018年4月11日・13日(采茶)
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県漫撒山(旧易武山)刮風寨小茶樹
茶廠 : 店長と茶友たち
工程 : 生茶
形状 : 餅茶180gサイズ
保存 : 熟成壺
茶水 : 京都の地下水
茶器 : 宜興の茶壺・チェコ土の茶杯・鉄瓶+炭火
鉄瓶
茶器

お茶の感想:
試作のお茶。
この2つと同じ原料の茶葉。
+【刮風生態青餅2018年】
+【刮風生態紅餅2018年】
包装紙
この一枚は、炒不熟(浅い炒り具合)・渥一晩(渥軽発酵一晩)・2天晒(天日干し2日間)・加蒸5分(圧餅加工の蒸し+5分)などと書いてある。
「黄印」という分類になるから、「黄」の印が押してある。
餅面
茶葉
揉捻はしっかりしてあるが、揉捻後に茶葉を叩き伸ばして縮みを防ぐ仕事をしていないから縮んだままになっている。ま、風味への影響は少ないだろうから試作品として問題はないだろ。
もう少しで1年熟成となるこの茶葉。
黄色い
出来たてのときは圧餅の蒸し味が強く残っていた。蒸し味は香りを曇らせて、味はペタンと平面的でややカタイ酸味とピリピリした刺激があった。体感は穏やかな気がするが単独で飲んで違いがわかるほどでもない。
ほぼ1年熟成になる今飲んでみると、蒸し味が気にならない。
茶湯の色
香りは甘くて、味は透明度が高くて酸味も総合的なバランスに吸収されて、ピリピリは少なくなっていて、体感はあきらかに穏やか。
蒸し時間5分増しの効果でしっとりした熱が入っているせいか、1煎ごとに注ぐ湯の熱による変化が少なくて安定している。濃くなると苦くて薄くなると甘いバランスがシビアなのは3煎めまで。その先はひたすらじっくり抽出するのみ。雑味なく透明度の高いことで見えてくる深い味わいがある。
熱い湯で長時間蒸らしても野暮ったい煮え味が出ないのが「黄印」の良いところ。
圧餅の蒸し時間の長いほうが味の透明度が増すが、長期熟成の濁りも減らすことになるかもしれない。そんな気がする。
これ、もしかしたら本作品として出品したほうがよかったのかもしれないな。
いずれ勉強会をしてこのお茶のいくつかのパターンを飲み比べてもよい。
葉底

ひとりごと:
菩提酛のどぶろく
このお酒が飲んでもしんどくならないのは米の健康が理由かと思う。つくりのどうこうとは別だろ。
でも、原料の良さがつくりに良い影響をもたらす。
お茶もそうだし。

巴達古樹紅餅2010年 その26.

製造 : 2010年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+孟海の茶廠
工程 : 紅茶
形状 : 餅茶380gサイズ
保存 : 密封
茶水 : 京都の地下水
茶器 : チェコ土の茶壺・鉄瓶・炭火
紅茶2010年
380gサイズ

お茶の感想:
熟成の方針が固まってきた。
茶葉にあわせた保存方法を探ってきて、あっちへ向かったりこっちへ向かったりしてきたが、3年前の2016年くらいから目指すところが見えてきて、この先は微調整をすることはあっても大きな方向転換はしないだろう。
2016年までのお茶には、多かれ少なかれ保存環境を変えてきた熟成味がプリントされている。
わかりやすいのが2010年のこのお茶。
+【巴達古樹紅餅2010年】
カンタンに言うと、はじめの3年間ほどの保存環境は温度・湿度ともに高めだった。
紅茶はそのへん敏感だから。
今になってみたらこんなふうにはしないな・・・というくらい方向が違う。
2013年から後につくった紅茶は、産地の西双版納から半年以内に出して別の地域に置いている。
なので、手元のいくつかの紅茶の熟成味は大きく2つのタイプに分けられる。このお茶と2011年の『紫・むらさき秋天紅茶2011年』と、それ以降のお茶と。
+【紫・むらさき秋天紅茶2011年】
このお茶にプリントされた熟成味の特徴は、ドライフルーツのような熟れた甘い香り。酸化したやや酸っぱい味。
西双版納で保存されている生茶のプーアール茶にはよくあるタイプ。
この10年ほど、西双版納の現地で保存熟成したのが増えて、このタイプの風味に慣れてきたお茶ファンも増えて、市場ではそこそこ支持されている。
このタイプは茶気が穏やか。
ガブガブ飲むと身体が辛くなるお茶でも、熟成したら味も体感もまろやかになる。
このタイプを好む人を観察していると、おそらく味よりもこの体感のほうを好んでいるように見えるが、どうだろ。
熟成の味や体感の科学は不明。
温度や湿度だけで説明はできない。
外の環境と茶葉の内側の環境との関係。茶葉の内側のミクロの世界の水道管に溜まっている水が、気温や湿度や気圧の変化で動くから。でも、どういう時にどう動くのかがほとんどわからない。わかっているのは水は温かいところから冷たいところに逃げる性質があることだけ。
そもそも微量な水が茶葉の熟成にどう関わるかを証明した文献なんてないだろう。金にならない研究だし。
とにかく、西双版納の環境は生茶と紅茶の熟成には向いていない・・・・と自分は推測した。判断した。これに掛けてみる。
なので生茶と紅茶は西双版納で熟成させないことにしたのだ。
炭団
洪乾
このお茶をゆるい弱い火で長時間炙って出す。
炭団に火が着いてから灰で厚く覆って手をかざしても熱くない程度にする。
6時間ほどかけて390gあった重量が375gにまで軽くなる。減った15gは水。さらに陰干しに一日かけて粗熱をとると5g増えて380gになる。5gの水が戻っている。(1枚毎に10g前後の差はある。)
鉄瓶
マルティンハヌシュ
2煎め
こうすると風味が軽くなる。
ドライフルーツの熟れた香りはほぼ消えてドライフラワーくらいになる。酸っぱい味も全体のバランスに溶け込んでまるく納まる。
3煎めくらいから薬草っぽいスモーキーな香りが出てくる。バニラっぽい甘い香りもある。この香りに奥行きがあって景色がひろがる。
景色のある味は上等な味。
西双版納以外の環境で長期熟成させた紅茶にもこのような香りが出てくるのかどうかはまだわからない。
出てこなかったら、また西双版納の熟成をやり直したらいい。
葉底

ひとりごと:
保存熟成に完成度を求めると、そうなると、現在の出品方法では都合が悪くなる。
出品方法を変えることにする。
お客様にお取り寄せの案内メールはもうしない。
在庫から好きなお茶を選べるようにはもうできない。
コレでどうだ!という熟成の仕上がったひとつかふたつを、なんらかのカタチで発表して、何らかのカタチで取引する。
具体的にどうするかはゆっくり考えることにする。

大益貢餅熟茶98年 その1.

製造 : 1998年
茶葉 : 雲南省西双版納州巴達山
茶廠 : 孟海茶廠
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 餅茶崩し
保存 : 通気・密封
茶水 : 京都の地下水
茶器 : チェコ土の茶壺・チェコ土の杯・鉄瓶+炭火
茶葉

お茶の感想:
茶葉の整理をしていたら30gほどサンプルが出てきた。
+【大益貢餅熟茶98年崩し】
旬の若い茶葉が主原料の、典型的な現代熟茶。
自分の知る現代熟茶の中では、最高峰のひとつと言える。
餅面裏
崩し
金花
写真: 2010年当時撮影。2.8キロの大餅。崩したら金花がびっしり。
熟茶の渥堆発酵について、昨年の秋からある問題に注目している。
発酵の過程で酵母が過剰に活性化すること。
問題の原因は、やわらかい若葉が原料になっているため、と推測している。
微生物発酵の黒茶はもともと大きく育った老葉が使われていた。1970年代から量産のはじまった熟茶づくりにも当初はそういう茶葉が使用されていたが、国営時代の孟海茶廠が新芽・若葉をふんだんに使った新しいタイプの熟茶を出品する。
1975年のこのお茶が最初だろうか。
+【7562磚茶プーアール茶】
やわらかい若葉のしなやかな繊維と含水量の多さとが、酵母だけに有利な環境を提供して、他の優良な菌類の活動を制限してしまう。とくに黒麹菌は、酵母の発熱による高温と息苦しさのために生きていられる期間が短くなる。
渥堆発酵の茶葉の山の上のほうと下のほうと2層をつくって、下のほうでは高温・多湿になっても上のほうでは適温・適湿が保たれるようにして黒麹をつなぎとめて、渥堆発酵の生態環境を維持するのだが、1ヶ月間のうちに何度か撹拌して上下を混ぜ合わせるから、最後には全体が酵母発酵臭い茶葉になってゆく。
黒麹と酵母の活動時間の割合が、例えば5:5が理想だとしたら、現実は3:7くらいだろうか。感覚的に。 
「酵母発酵臭い」と言ったが、味は悪くない。むしろ甘くて、発酵の良いのは”美味しそう”な香りがする。
味の問題じゃないのだ。
体感の問題。酵母優勢の熟茶は暑苦しい。冷えた身体でないと美味しく飲めない。
消費者の嗜好というか、現代の人々の生活に合わせてお茶を飲む目的が変化して、体感よりも味のほうが重視されている。
しかしこの傾向は好ましくないと自分は見ている。
お茶がクスリから離れて味の嗜好だけを求めると、コーヒとポジションの奪い合いをして価格競争になる。
とくに微生物発酵茶においては、味はあくまで薬効を確認するための指標というくらいの役割で良いと思う。
正しい味よりも、正しい体感。
お茶はクスリからポジションを奪い返すべきだ。
(ここで言うクスリとは、病気を治すよりも快楽を得るほうのクスリ。)
さて、このお茶『大益貢餅熟茶98年』はどうか。
一煎め
このタイプの熟茶は、煮やしてはいけない。
高温の湯がよいので蓋碗よりも茶壺だけれど、短時間の抽出でサッと湯を切りたい。
1煎め2煎めは、発酵度の浅いスッキリ爽やかな風味となる。
1998年の国営時代の孟海茶廠の職人が自分用にとっておいたお茶で、その職人から入手しているので、原料の茶葉の身元が特定できている。孟海茶廠の自社所有の巴達山の茶畑のもので、他の地域のブレンドは無い。
渋味がしっかりしているし、口感のとろみも少なめだし、この味がブレンドしない無調整なのだから、発酵度の浅い渥堆発酵だと推測できる。
そして、たぶんこのために暑苦しさが抑えられている。
現在の渥堆発酵の技術において発酵度が浅いということは、例えば涼しい季節に低めの温度で発酵させるとか、なんらかのカタチで酵母発酵が抑制されているのかもしれない。
三煎め
3煎めくらいに抽出に時間をかけてみたら、やはり煮え味の酸味が出てくる。
ただ、製茶工程の渥堆発酵後なのか圧餅後なのか、熱風乾燥の高温による焦げ味が効いているから、煮えた味になってもバランスは崩れない。美味しい。
1998年のもので現在2018年だから20年熟成モノ。
20年間の常温保存による焦げ(メイラード反応)も関与しているから、つくられた当時に意図されたバランスではないかもしれないけれど。
葉底
葉底の色が均一であるのがブレンド無しの単一発酵モノであることを裏付けている。
茶葉の大きさが均一なのは、渥堆発酵後に篩がけで選別されているから。
篩がけは、渥堆発酵の茶葉の山の上の層・下の層の2層のうちの上の層のやや乾燥した部分だけを抽出できる。なぜなら、下の層になった若葉は茶葉同士で粘着してくっついて茶頭と呼ぶ塊になりやすいから。
茶頭の大きさは様々で、豆粒くらいから小石くらいまで。しっかり固まったのもあれば、揺すればほどけるくらいゆるいのもある。これらはすべて酵母発酵臭い。
渥堆発酵の撹拌のときに、茶頭をほぐさないように残しておいて、つまり撹拌を適当に手抜きして、最後の篩がけで取り除くようにしたら、酵母発酵の抑制された茶葉だけを抽出できる。
ということじゃないかな。
手抜きするためには、篩がけを機械を使って厳密にしちゃいけない。鍬みたいなので人力でザックリやるほうがよい。
ということは、近代的な設備ほど酵母発酵臭いお茶ができやすいことになる。
鍬
酵母発酵臭い茶葉とそうでない茶葉を篩にかけて選別したらよいのだ。1つの原料から2つの熟茶をつくればよい。
ただし、半々ではない。
酵母発酵臭くない茶葉は、3:7の、3のほうだけを選ぶ贅沢なつくりとなる。

ひとりごと:
そうだよな。
もう結論が出ている。

孟宋新緑散茶2018年 その2.

製造 : 2018年3月18日(采茶)
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県孟宋山小茶樹
茶廠 : 愛尼族の農家
工程 : 生茶
形状 : 散茶
保存 : 密封
茶水 : 京都の地下水
茶器 : チェコ土の茶壺・チェコ土の杯・鉄瓶+炭火
茶器
茶葉

お茶の感想:
2018年の春のお茶。
早春の緑の爽やかさをそのまま表したような生茶というよりは緑茶っぽいお茶。
昨年の春だからもうすこしで1年経つが、晒干で仕上げたお茶は少なくとも1年くらい熟成したほうが味がしっとりしてくる。
+【孟宋新緑散茶2018年 その1.】
一煎め
煮やさないようにサッと湯を切る。
サッと淹れても薄くならない程度に茶葉はちょっとだけ多めにする。
2煎めくらいまでは水質にとろみがあって、味がふくよかに感じる。ふんわり緑の甘い香り。
3煎めに、試しにじっくり時間をかけて抽出してみると、水質のとろみは失われて角が出て、苦味や酸味が際立って、茶湯の色は黄色っぽくなり、香りには果実っぽさが出てくる。
煮やしてはいけない茶葉。
3煎め
葉底
葉底の色にも緑が鮮やかに保たれている。
黄色や紅茶色の軽発酵した部分が少ない。
揉捻が弱く、圧餅もしていない散茶のままなので、3煎くらいで捻じれが解けて茶葉が開く。
現在はこういうつくりの生茶のほうが多いかもな。
茶葉を煮やさないように気を使って淹れてもらえたら高い評価を得られると思う。

ひとりごと:
製茶の具合に応じたお茶淹れ技術をテーマにした勉強会をしたい。


茶想

試飲の記録です。

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