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版納古樹熟餅2010年 その36.

製造 : 2010年7月
茶葉 : 雲南省西双版納州巴達山曼邁寨+章朗寨古茶樹2009年秋茶
茶廠 : 農家+孟海県の茶廠
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 乾倉
茶水 : 京都の地下水
茶器 : 鉄瓶+チェコ土の茶壺
鉄瓶あられ

お茶の感想:
鉄瓶を探る。
濃く淹れても透明感のある味わい。
高温抽出でありがちなドライな刺激をしっとりと包み込む水質。
いろんなお茶を濃い目に淹れてみよう。
ということで、今日はこのお茶。
【版納古樹熟餅2010年】
版納古樹熟餅2010年
思い切って真っ黒に出してみる。
いつもは7煎くらいまで続けるところを、前倒しにして3煎めで切るつもり。
鉄瓶なら1煎めからフルパワー。3煎で出し切る配分は無理なくできるはず。
鉄瓶独特の熱の響きをつくるには時間を掛けてじっくり湯を沸かしたほうがよい・・・と信じている。
まずガスコンロの弱火で25分ほどかけて水から湯を沸かす。途中からシューン!という音が鳴り出して、底から小さな気泡が湧いて上下に対流する。気泡がだんだん大きくなって蓋のそでから噴く蒸気にチカラがみなぎる。
ガス火
ガス火の熱はまっすぐ上がり鉄瓶の底を突き抜ける。
上への直進力が強すぎる。水に強い刺激を与えるから、写真のように小さくトロトロした火で鉄瓶まで1センチ以上の隙間を空けたほうがよい。コンロの高さ調整ができるよう薄い五徳を敷く手もある。
沸騰するまでの時間、水は鉄から伝わる熱の響きを聞いている。水の粒子がそれを記憶する。
アルコールランプ
アルコールランプの火も親指の先くらい小さめ。
鉄瓶から茶壺に湯を注いでからも水の記憶はすぐに消えない。茶葉にその熱が伝わり抽出される成分にもなにかが響いている。
たぶんそういうことじゃないかなというようなお茶の味。
版納古樹熟餅2010年
版納古樹熟餅2010年
味のように体感にも違いがでてくる。
これだけ真っ黒く抽出してもサッパリしている。熟茶にありがちな暑苦しさはなく、むしろ涼しい。手前味噌ながら茶葉が良いというのもある。
茶酔いはゆったりと長い波で寄せてくる。
静かで落ちついた体感。
お腹の底を温める熱がいつもより力強い。
水が記憶する熱の響きは、おそらく体内にもなんらかのカタチで伝わる。
鉄瓶を傷めたくないので試さないが、強火で短時間で沸騰させたらお茶の体感も変わってくるだろう。いつも使っているステンレスの電気ポットは3分で沸騰するが、その湯でこのお茶を濃く淹れたらもっと辛くて暑い味になるし、体感はもっと衝撃が突然くる感じ。そうすると、昔みたいに炭火で湯を沸かすともっとやさしくなるだろう。
この熱の響きはお茶の成分を身体に”伝えるカタチ”をもっているのではないかと思うが、冷たいお茶では酔えなくなるので、水の記憶と熱とはセットで響いているのだ。
お茶は熱いうちに飲むほうがよい。
冷たいお茶を飲む日本人の習慣は、茶酔いを評価していないことがわかる。飲みものが身体にどう響くかに関心がないのだな。
鉄瓶

ひとりごと:
もしかしたら酒でさえ酔い心地を評価していないかもしれない。
舌先・鼻先の味や香りだけで評価していたら、大事なところを見落としてしまう。
つくっている人が大事なところを見てほしいと思っているお酒が飲みたい。

易武古樹青餅2010年 その34.

製造 : 2010年4月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県易武山麻黒村大漆樹古茶樹
茶廠 : 農家+易武山の工房
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 京都陶器の茶壺
茶水 : 京都の地下水
茶器 : 鉄瓶+チェコ土の茶壺
鉄瓶

お茶の感想:
お茶の良し悪しは酔いの質をみる。
茶酔いの快楽がいちばん価値あるところ。
舌先・鼻先でわかる味や香りはその次で、むしろ没個性でひかえめなほうがよかったりする。
人は快楽に上質を求めると、なぜかストイックになれる。
なにかの本で読んだが、アヘンがそうらしい。アヘン戦争のアヘン。
その効能を最大限に発揮できるよう、喫烟する一日前からなにも食ベない。酒もお茶も飲まない。コップ一杯の水だけでしのぐ。空腹時に酒を飲むと酔いが回るように、空っぽの身体にアヘンが回るとブッ飛べるそうだ。もしも身体に不純物が入っていると飛べなくなる。
たとえ裕福な人でも、美食・美酒をあきらめてアヘンの快楽に生きようとする。だから中毒者はガリガリになってゆく。映画などで貧民が生活苦から逃げるためにアヘンに溺れてガリガリというのは作られたイメージかもしれない。むしろ公務員など要職に就く人がアヘンに侵されるから社会に大きなダメージを与える。大英帝国の狙いはそこだったわけだ。
歴史の本によると、アヘンの喫烟は主に茶楼で行われていた。
交易で栄えた華やかし頃の中国の都市の茶楼は『千と千尋の神隠し』の舞台となる油屋みたいなイメージだろうか。カンフー時代劇でも出てくる木造の豪華な館。個室で寝そべり窓から表通りを見下ろしながら、食・酒・煙草・茶・女・音楽と、あらゆる快楽を嗜む。
タイの仏像
その中のひとつだから、茶酔いは他の快楽に負けられない。
茶葉を選んだり、道具をそろえたり、キレイな水を汲みに走ったり、湯を沸かすのに時間をかけたり、淹れ方を工夫したり、瞑想したり。茶酔いの快楽のためなら手間暇を惜しまない。犠牲をためらわない。
山深い霊気のあるところに育つ茶樹で、樹齢は300年を超えた高い幹のものを選ぶ。采茶や製茶はできるだけ人の手の汚れ(わざとらしさ)から遠ざけなければならない・・・など、現在にも残る価値観は味のためより茶酔いのためだとすると、あまり大げさな話には聞こえない。快楽を求めるストイックにはわざとらしさがない。
お茶は仏教と相性がよくて、禁欲的な生活をするお坊さんが茶を飲むイメージがあるけれど、お坊さんは茶酔いの効能が最大限に発揮されるコンディションを整えているという点で、ストイックな快楽主義者である。身体に不純物が入っている凡人とは違うレベルの酔いを体験しているにちがいない。お経を唱える声がムニャムニャとなにを言っているのかよくわからないのは、茶酔いにラリった状態を表現しているのかもしれない。
さて、長い前フリになったが今日から鉄瓶を試す。
鉄瓶八角
茶葉との相性もあるだろうから、いろいろ試してゆくとなると一年はかかりそうだ。長い旅は望むところだ。もっと遠くへ連れて行ってほしい。
茶壺と同じで使い始めは安定しない。内側の漆塗りや鉄の臭いがあるので、熟茶の茶葉を2回煮て”ならし”をした。それでも安定するには3ヶ月はかかるだろう。
湯はガスコンロの極小の火で24分かかって沸騰させる。それからアルコールランプの小さな火で高温を保つ。「シューン」と小さな音が鳴っているくらいの沸騰。
今日はこのお茶。
【易武古樹青餅2010年】
易武古樹青餅2010年試作品
湯の熱には響きがあるという話を「茶学」でしていたけれど、その理屈からすると鉄瓶の熱はお寺の鐘のようにゴォーーーンと低音で響く。
茶壺に注ぐ湯、茶壺から杯に注ぐ茶。ともに湯気がみなぎって熱量の高さが現れている。生茶は高温で煮やすと苦味・渋味が立ってしまうので、ちょっと心配だけれど思い切ってじっくり濃い目に抽出してみた。
易武古樹青餅2010年
茶湯の色からしても濃い味になったはずだが、口に含んだ瞬間は意外とあっさり。ややトロンとした舌触りながら透明感があり涼しい液体。と思っていたら、ちょっと時間差があって底の方から味わいが湧いてくる。
一煎めにして三煎めくらいの深い味わい。ゆったりと長い波長。チェコ土のマルちゃんの茶壺の波長ともピッタリ合う感じ。
ひとくちめにして「はーーーーーっ!」とため息が出て腹の底から息を吐きる。
香りは素直に出ている。アピールはおとなしめだが、これも長い波長で余韻が続く。
苦味の効き方はおおらか。二煎・三煎とすすめると春尖の辛味がでてくるが、煮えた嫌味はほとんど出ない。
ただ、後の煎が前倒しになる分、煎はつづかなくなる。四煎めで落ちてきた。
茶酔いはゆったりしている。
いきなりパーンと響くようなことなくじわじわ効いてくる。覚醒と眠くなるのとがバランスよく綱引きして、ボーっと窓の外の緑を見た。
7月の緑

ひとりごと:
鉄瓶は重い。
上の写真のは1750g+1000mlの水を入れると2750g。軽めのダンベルになって筋トレできる。
たぶん重さが理由で使わなくなる人が多いだろう。
ひとまわり小さいのも買ってみた。1450g+700mlの水で、それでも2キロはある。
ストイックにならないと快楽の上質は得られないのだ。
鉄瓶小
鉄瓶小

巴達曼邁熟茶2010年 その6.

采茶 : 2010年4月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺

お茶の感想:
12月の通販の臨時営業を延期した。
熟茶づくりに集中する。
次回の営業は来年の2月になる・・・かな。ちょっと自信がない。
ま、誰も困らない。
さて、熟茶。
渥堆発酵の布袋
鏡餅のように円盤を重ねている。
試行錯誤の末に収まってきたカタチ。
大量の渥堆発酵に近づけるために、布でくるんだ茶葉を二段にしている。もっと圧力を加えるために3段にすることもある。圧力があるほど高温になりやすい。
糖化を促したい茶葉を3段の真ん中にサンドイッチする。
渥堆発酵の主役の黒麹菌は酸っぱいクエン酸をつくるが、でんぷんを糖化させる酵素もつくる。
でんぷんを糖化する酵素は、茶葉が水をたっぷり含んで、でんぷん質が糊状になるときに効果を発揮する。糊状になる温度は50度から60度とされるが、渥堆発酵においては堆積した茶葉の中心部でそうなっている。
50度を超える渥堆発酵
しかし、後で調べてみたら黒麹菌のつくる酵素はもうちょっと低温でも糖化できるらしい。ただ、実際にはやはり50度を超える温度のほうがあきらかに糖化が早い。
加水4回目の頃から酸っぱい味がどこかへ消えてなくなる。
よく味わってみると存在するのだけれど、隠れてしまう。
分解されたのか結合されたのか知らないが、舌に酸っぱさを感じさせなくなる。
渥堆発酵の黒く変色した茶葉
加水5回目になると甘さすらも減ってゆく。旨味も減って淡くなる。そしてかすかに苦味が出てくる。
これは酵母の仕業だと思われる。
せっかくつくった糖などの美味しさを構成する成分を酵母が食べてしまう。
このとき水分が多すぎるとアルコールがたくさんつくられる。アルコールは香りの成分をつくるので、少しだけつくられるのがよいが、加減が難しい。
酵母は乳酸菌とセットらしいので、乳酸菌による仕事もなにかあると思うが、そこはまだよく解らない。
ここでちょっと考えてみる。
黒茶にする目的はなんだったのだろう。
緑茶としてすでに完成している茶葉に、わざわざ手間をかけて、時間をかけて、お金もかけて、茶葉の一部を微生物に喰われて重量を減らして、それでも黒茶にするのは、味を良くするためだけではない。
別の目的はなにか?
カフェインなどの刺激を和らげる。
長期保存や長距離の運搬に強い茶葉にする。
栄養価を高める。
そう、味よりももっと具体的というか現実的な目的がある。
黒茶の目的を意識したら、渥堆発酵をどの時点で止めるのか?という答えが出るだろう。
ということで、数日ずっと考えていたが、よくわからないまま、茶葉はどんどん変化を続けている。
熟茶のようになった茶葉
見た目は、すでに一般的な熟茶のようになっている。
小堆発酵の熟茶泡茶1
小堆発酵の熟茶泡茶2
もういいかな。
味はもうじゅうぶん熟茶になっている。
熟茶の泡茶5煎め
5煎め。
煎を重ねるとまだ新鮮な感じの色が出てくる。茶葉の芯まで変化していない。
葉底
葉底もまだ緑っぽさを残している。
しかし、黒麹菌が生きているうちは抗酸化作用が効いて、赤黒く変色させるのは難しいと思う。このまま適度な加水と乾燥を繰り返しても、変色のすすみはゆっくりである。
ここから乾燥させてみる。
茶葉がカラカラになると麹菌や酵母などの微生物は死ぬが、微生物のつくった酵素がまだ生きている。酵素は生物ではないから、酵素の活性(効力)がまだ残っているというのが正しい。
酵素は70度くらいの高温でその活性を失うのが多いので、餅茶に圧延加工をすれば、高温の蒸気で活性を失う酵素もあるだろう。
なので、このまま常温で長期熟成させることにする。
ラオスの竹編みの米びつ
ラオスの竹編みの米びつ
適度な通気を与えたいので、ラオスでつくられている竹編みの米びつを買ってきた。西双版納では雑貨屋さんや路上で売っている。
二重になっている。
ひと籠に5キロ入る。
完成したお茶を日本向けに売るには、長距離輸送のために圧延加工してコンパクトにしたほうがよいだろうが、上海の友人の店なら米びつごと散茶で売ってもよいな。

その他、メモ的に記録しておく。

保温について。
電気カーペットを利用して高温で発酵させるようになって失敗がなくなったが、そのかわり30度くらいの比較的低温で茶葉を長時間湿らせておくのが難しくなった。高温になりすぎて乾きが早い。
低温の調整ができる高性能なのに買い替えた。
これまでは下に1枚敷いていたが、上にも1枚被せて2枚体制にする。
低温設定で上下からじわじわ温められるので、蒸気が一方方向に逃げにくく、茶葉の保湿時間が長くなった。

熟成について。
お茶の味を調整するという黒茶づくりの目的は、長期熟成によって達成される。
これまでの渥堆発酵の過程では、微生物が邪魔をして味を思ったように変化させてくれない部分がある。いったん死んでくれないとどうしようもない。
酵素もまた、効力を発揮しやすい水分や温度の条件があるが、時間をかければ緩慢に変化がつづくので、それを頼りにするしかない。
やはり長期熟成でなければ解決できない問題もある。10年かかることもある。

泡茶で味が完成する。
お酒は液体で、完成した状態で売られているが、茶葉は個体で、まだ完成していない。
湯を注いだ瞬間に、温度の高い水と茶葉にあるいろんな成分とが融合して化学反応を起こして、味として完成する。
そこが泡茶の面白いところである。お酒を注ぐよりも、お茶を淹れるほうがずっと複雑なことをしている。
お茶の味を完成させるのは、湯を注ぐ瞬間である。

カビ毒について。
麹菌類にはカビ毒と呼ぶ毒素をつくるものがあるから、完成したのを一度地元の検査局で調べてもらう。茶葉を1キロ提供して、費用は1800元かかる。
茶葉のカビ毒は気温25度以下の低温多湿において発生しやすい。西双版納では乾燥に気をつけてさえいれば、まず問題はない。冬は乾季なので、空気は乾燥している。
渥堆発酵の最後の乾燥の工程では、茶葉を26度以上に保ちながら乾燥させる。
26度以上であれば、茶葉にまだ水分のあるうちは黒麹菌が生きていて、茶葉を守るだろう。このときちょっとだけ酸っぱいのが戻るかもしれない。

竹皮についた乳酸菌
竹皮についた乳酸菌
このお茶の原料である『巴達古樹青餅2010年』の7枚組を包んでいた竹皮を外したら、内側に白い粉が吹いていた。乳酸菌だ。
竹は乳酸菌と仲良しなので抗菌作用があって、食品の保存に利用できる。
こういうの大事だ。
存在理由のわからない菌をすべて排除するという考え方は間違っている。というか、不可能なのだ。
誤解を恐れずに言えば、自然界に存在する毒素でさえ、少量であればなんらかのカタチで人の身体の健康に貢献している可能性がある。風が吹けば桶屋が儲かるみたいにまわりくどくて、解明の難しいのも多いだろう。
そのご利益を排除してゆくような現代的な食品づくりの考え方が気持ち悪い。

ひとりごと:
渥堆発酵の熟茶づくりも労力のいる仕事。
細かな作業がたくさんあり、ひとつひとつにコツがある。
料理をつくるのと似ていて、慣れるまでは順序がわからなくてモタモタするし、余計なチカラを使うし、失敗もする。
しかし、慣れてくるとスピードが上がる。身体の筋肉もそれに対応して成長してくる。
料理の上手な人がチャッチャと手早くつくれるように、渥堆発酵の作業も手早くできるようになる。
作業のスピードやリズムもまた、お茶の味に関係していると思う。

巴達曼邁熟茶2010年 その5.

采茶 : 2010年4月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺

お茶の感想:
クエン酸でお茶が酸っぱくなる問題を考える。
渥堆発酵の主役の黒麹菌はクエン酸をつくる。
なので酸味がゼロという熟茶はありえない。
しかし、流通している熟茶はそれほど酸っぱくない。どちらかというと甘い印象がある。
どうやって酸っぱいのを抑えるのか?
ところで、泡盛のもろみは黒麹菌で醸されるが、酒は酸っぱくない。蒸留酒だから、蒸留するときにクエン酸は蒸発しないでもろみに残る。なのでもろみは酸っぱい。
熟茶づくりに蒸留という工程はないので、クエン酸を分離できない。酸味をどうにかして緩和するしかない。
このアプローチについて考えてみる。
まず、クエン酸を控えめにするよう黒麹菌の活動を抑制する手はあるだろうか。
例えば、加水の量を減らしたり、保温の温度を低めにしたり、好気性だから密封するなどして呼吸を制限したり。
これはありえないと思う。
とくに発酵開始数日内の段階では、他の雑菌を殺したり寄せ付けなくするために、黒麹菌の増殖が圧倒的多数でないといけない。
西双版納のような亜熱帯気候では雑菌の繁殖も早い。強力な免疫力を得ることが発酵食品づくりの第一歩である。
もしも黒麹菌がクエン酸をつくらなければ、乳酸など、他の免疫力を持たせる必要がある。たしかに、黒茶づくりには乳酸菌を利用するのもあるが、そうなると熟茶ではなくなる。亜熱帯地方の環境で育った黒麹菌でつくるからこそ、この地域の味といえる。
ただし、クエン酸を増やし続ける必要もない。
つぎに考えるのは、どの時点で発酵のブレーキをかけるかということ。
一般的に熟茶づくりの渥堆発酵の期間は1ヶ月から2ヶ月である。その間に、3回から5回ほど加水して撹拌する。最後に茶葉を乾燥させるまで、黒麹菌は繁殖しつづけるだろう。
ここで注目するべきは、茶葉の水分と温度と空気と、この3つの条件によって発酵の結果はずいぶん異なるということ。
11月21日の記事でも紹介したが、餅茶の中心の石ころのように硬いところ。500円玉くらいのサイズをそのまま発酵させている。
これが、実はあまり酸っぱくない。とても甘い。
茶頭
パラパラになった散茶は加水から数日後には乾燥するのに、この石ころ状の茶葉はまだ水分を持って柔らかい。水の逃げにくい構造であり、空気の入りにくい構造でもある。発酵中は水分のあるところほど発熱しやすくて温かい。でんぷん質を糖化させる酵素の作用が活性化しやすい環境になっている。
黒麹菌は空気に触れやすいところだけでクエン酸をつくりやすく、内側にはつくりにくいのかもしれない。しかし、糖化酵素もまた黒麹菌のつくったものである。
ということは、水分と通気を調整したら酸味のバランスを調整できるかもしれない。
実際に、2回目の加水ではそうしている。
大量の渥堆発酵では堆積した茶葉の中心部分にその環境がつくられる。原料の晒青毛茶を1メートルほど堆積する。水をかけてからは50センチほどに下がる。中心部から下のほうはかなりの圧力がかかって、茶葉と茶葉の隙間がつぶれて、空気が入りにくい。
布に包んだ7キロの小堆発酵でも、加水してから重しをするなどして圧力をかければ、石ころ状の茶葉の環境に近づけることができる。
1回目の加水と2回目の加水で、発酵の目的が変わっている。
泡茶
ラオスに壺に売られている固形の酒がある。
液体ではなく「餅麹」というカビだらけの硬いパンのようなものが壺に入っている。壺に水を注いで草みたいなので蓋をして、2日も待てば発酵して酒になる。
1回目の発酵が餅麹づくり。2回目の発酵が酒づくりとなっている。
餅麹づくりは主に麹菌の仕事。でんぷん質を糖化する酵素をつくる。この段階で酵母も増えている。
壺に水を入れてからは主に酵母の仕事。酵素がでんぷんを糖にして、酵母が糖をアルコールにして酒となる。
渥堆発酵はここまではっきり仕事が別れていないが、発酵には段階があるということ。
これを意識したら、1回目の加水と2回目の加水の目的はあきらかに異なる。
そして、2回目の加水後は頻繁に撹拌しないほうがよいことになる。撹拌するほどに茶葉から水分が蒸発して減り、新鮮な空気が入り込んで、糖分よりもクエン酸が盛んにつくられるだろう。酵母は二酸化炭素をつくるので、通気をしなければ渥堆発酵の茶葉のかたまりは酸素が少ない状態になる。
糖分を増やすことでクエン酸の酸っぱいのが緩和されて甘いお茶になる。
例えば、トマトソースをつくるときに長時間加熱するのは、クエン酸の酸っぱいのを抑えるためだが、砂糖をちょっと足すのも効果がある。これに似ているかもしれない。
葉底
ここまではよいが、もうひとつ新しい問題が出てくる。
それは酵母の作用について。
酵母は糖を分解してアルコールをつくったり乳酸菌を発生させたり、よい香りにつながる成分もつくる。アルコール発酵は空気のない状態で起こるはずだが、ミクロの世界では、茶葉に水を含んで空気のない部分もたくさんある。
しかし、酵母が活躍すると糖分は減る。せっかく甘くなってもまた元に戻る。
この間も、黒麹菌はでんぷん質を糖化する酵素をつくりつづけるだろうから、でんぷん質があるかぎり糖分は供給される。
供給が早いか消費が早いか。
このバランスも、茶葉の水分と温度と空気と3つの条件で調整できるのだろうか。
観察をつづける。

お茶の感想;
単独の渥堆発酵でちょうどよいバランスの風味に仕上げるのは、あんがい難しいのかもしれない。熟茶製品の多くがブレンドで仕上げられるのは、発酵が足りなかったり、行き過ぎたりするのを調整する目的もあるだろう。
単一の原料で単独の渥堆発酵。これで良いバランスに仕上げた『版納古樹熟餅2010年』はすごい。
職人が良かったのだ。

巴達曼邁熟茶2010年 その4.

采茶 : 2010年4月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺
巴達曼邁熟茶2010年茶葉

お茶の感想:
渥堆発酵に挑戦しはじめてから25日め。
電気カーペットで保温するようにしてから失敗がなくなった。
やはり極少量の渥堆発酵は全体の温度の変化が大きく、また急になりすぎる。大量の茶葉での渥堆発酵はその変化を緩和できるのだな。
加水の量が多すぎるのが原因と思っていたが、加水が多いと変化が大きくなって、結果的に温度調整が難しいのだ。
極少量の渥堆発酵「小渥発酵」と省略して呼ぶことにする。
温度管理と水分の調整が適切になってくると、小渥発酵のほうが発酵が早くすすむ。
主役の黒麹が繁殖してくると、はじめの2日目くらいまでは試飲しても味が変わっていないような、元の茶葉のままのような感じである。本当は甘味や旨味が少し増しているのだけれど、比べてみないとわからない程度。
これはすごいことなのだ。
なぜなら、水に濡れた茶葉が30度の気温で2日経っても変わっていないほうが異常だから。普通は腐るから。
この時点ですでに黒麹がすでに茶葉を支配している。
3日目くらいになってくると酸味が増してくる。酸っぱいお茶になる。これは黒麹のつくるクエン酸によるものと思われる。梅干しの酸っぱいのもクエン酸。この酸っぱさに似ている。黒麹はクエン酸で他の雑菌を寄せ付けずに自分だけのパラダイスをつくろうとしているらしい。
さて、この酸っぱいのが発酵の過程でどうやって酸っぱくなくなるのか?
ここがまだよくわからない。
他の黒茶で酸っぱいのはあっても、熟茶のプーアール茶に酸っぱいのはない。
泡茶
そう思っていたが違うらしい。
小渥発酵の途中の酸っぱいお茶を飲んだ後に『版納古樹熟餅2010年』を飲んでみると、酸っぱい成分の隠れているのがわかる。『7581荷香茶磚97年』などはもっとわかりやすく酸っぱい。
熟茶にはクエン酸が存在している。
食器やキッチンの油汚れが熟茶でサラッと流れるのは、クエン酸のせいだったのかな。
なぜ熟茶を酸っぱくないお茶だと感じるのか。
酸っぱいと感じさせないような成分構造に変わっているのか?
クエン酸が減少するような変化があったのか?
ま、おそらくその両方があって、最終的には甘いお茶になるのだろう。
クエン酸は重曹で中和するとか、130度以上の熱で分解するとか、酸っぱいのが減少する化学は知られているが、渥堆発酵の途中に重曹を加えるとか、130度の熱で加熱するというのは聞いたことがない。
(ただし、圧餅の蒸気の熱は、圧力がかかっているから130度に達しているかもしれない。)
渥堆発酵で起こっている自然の化学変化に、クエン酸の酸っぱさを緩和する作用があるのだと考えている。
実際に、小渥発酵の途中のを毎日試飲していると、ある日は酸っぱくて、ある日はそれほどでもない。酸っぱさに変化がある。
そして経験的に、小渥発酵の袋の中の茶葉をしっかり撹拌したときに、酸っぱさがやや緩和するのを知っている。袋の中心と外に近いほうでは水分や温度に差があり発酵状態が異なる。発酵でつくられた成分も異なるはず。
そうなると、小渥発酵で全体が均一化しやすいという問題は、やはり全体を大きな変化に晒すことで対応するしかないな。
葉底

ひとりごと:
渥堆発酵による熟茶づくりを経験することで、生茶の老茶を再現する技術が見つけられると考えている。
微生物発酵の「黒茶」としての生茶である。
すでに出品中の生茶はともかく、これから新しく出品する当店の生茶は、天日干し「緑茶」ではない。お客様が手元でカンタンに保存して年月が経つほどに魅力的な味わいになってゆく「越陳越香」の黒茶のプーアール茶である。
そうする。
渥堆発酵の発酵のある段階において、1950年代から1980年代の生茶の老茶にあった、あの香り・あの風味が一瞬顔を出すことがある。
どこかに似た変化が起こっているのだ。

巴達曼邁熟茶2010年 その2.

采茶 : 2010年4月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : チェコ土の茶壺
巴達純生青餅2011年7キロ
巴達純生青餅2011年泡茶
葉底

お茶の感想:
渥堆発酵にまた失敗。
7キロ分の茶葉を土にした。
原料は『巴達純生青餅2011年』(未出品)。
巴達山曼邁寨の古茶樹の2011年の春の采茶で、殺青の火入れを浅くして半生に仕上げた。長期熟成にどんな効果があるのかを確かめるのが目的だったが、5年めの熟成になってもパッとしないので、熟茶にしてみた。
失敗の原因は原料にあったのではない。加水が多すぎたのだと思う。
途中までうまくいっていたが、6日目になって、一般的によくある熟茶の土っぽい風味が出てきた。
発酵中の茶葉が少しずつ乾燥してゆくと同時に熱が下がってくる、水分が多く残ったまま冷たくなる部分に望ましくない変化が現れる。
あともう少し温度を高く保っていれば。
あともう少し茶葉が乾燥していれば。
ま、後からならなんとでも言える。
せっかく独自製法を試しているので、一般的によくある熟茶とはひと味もふた味も違うものにしたい。
渥堆発酵の倉庫
熟茶づくりの要の微生物発酵は「渥堆発酵」という名の通り、茶葉を堆積して行う。
一般的には1000キロ以上もの大量の茶葉を集めるが、近年は竹籠で囲う技術が普及して、数十キロの単位でもいける。
更にそれを改良して7キロという極少量を試みている。
7キロでなくても、2キロでも10キロでもよいのだが、いろいろ試したところ、手元の道具や設備では7キロが適量である。
少量の茶葉で大量の渥堆発酵と同じ状態にいかに近づけるかが課題。
大量の茶葉を堆積させて水を掛けると、もっとも水が集まりやすく、熱がこもる中心部から発熱してくる。48時間後には60度に達することもある。
この中心部の熱と、熱による蒸気の発生とを利用して、微生物発酵に適した環境を周囲の茶葉に与える。
このため、茶葉の量が多いほど長期間(数日間)にわたって熱と蒸気を維持できるというわけだ。28度くらいの比較的高温を好む黒麹菌の活動が持続しやすくなる。
中心部の発熱している茶葉は捨て駒というか、周囲の茶葉の犠牲になっていると考えられる。なぜなら黒麹菌は50度以上では生きて活動できないからだ。
数日ごとにかき混ぜることで選手交代する。外側と内側の茶葉が入れ替わる。これを何度か繰り返して、微生物発酵による成果を均一化させる。
同じく、黒茶(微生物発酵のお茶)の「広西六堡茶の」現在の製法には、熟茶の渥堆発酵を応用して生コンミキサー車のような大きなドラムをゆっくり回転せながら均一に発酵させる技術がある。水分も温度もムラができない。
しかし、この結果がたいして魅力のある美味しさにつながっていない。
市場の流通量からみても熟茶が圧勝ということは、発酵ムラとも言える中心部の熱や外側の乾燥したところなど、環境に多様性があってこそ魅力ある風味が醸し出されるということかもしれない。
これを前提にして極少量発酵の技術を探る。
7キロの茶葉でも中心部と外側の発酵ムラはできる。
しかし、大量発酵ほどは大きな差はない。そこが良いと思っている。
大量発酵では細部の管理が雑になる。水分の多すぎるところ。乾燥しすぎるところ。熱がありすぎるところ。冷たくなりすぎるところ。空気に触れにくいところ。触れすぎるところ。これら、ゆきすぎるところに雑味が発生する。
例えば茶頭。
茶頭
茶頭は、茶葉が粘着して石ころのような塊になってしまった部分である。水分が多く高温になる中心部にできやすい。数年前に流行ったが、実はこの塊の中は空気の好きな黒麹菌が活動しない。熟茶らしくない味が宿ることになる。実際に『版納古樹熟餅2010年』の茶頭は味が薄かった。
+【版納古樹熟餅2010年 その5】
では、なぜ茶頭が美味しいという話が広まったかというと、数年前までメーカーは売れない茶頭をたくさんかかえて保存していたからだ。メーカーの高温多湿の倉庫で比較的乾燥したところを好む金花(麹の一種)などによって後発酵(二次発酵)が起こって美味しくなったのだろう。老茶頭には確かに特別な風味があった。
+【醸香老茶頭散茶90年代】
さて、今日のお茶は『巴達曼邁熟茶2010年』(仮名)。この茶頭、ではなくて、餅茶を崩したときに硬すぎてどうしても崩せない真ん中の部分。
茶頭
500円玉くらいの大きさ。
いっしょに渥堆発酵している。7キロの中には約18枚分の18個はある。
茶頭崩したところ
茶針で2つに割ってみると、内側の茶葉に麹の胞子は現れていない。変色もしていない。水分を吸収してちょっと柔らかくなっている。空気の入る隙間がない。水分がこもって発熱していた。酵素によって澱粉質が糖化しているはずだ。茶頭に近い状態になっている。
茶頭の茶湯
湯を注いだときにちょっと酒粕のような香り。酵母が糖をアルコール発酵させたのかもしれない。安モノの熟茶にこの香りはよくある。
葉底の色ムラ
葉底の色にムラがある。外側と内側の色の違い。
渥堆発酵の散茶
散茶の泡茶
散茶のと比べると、茶湯の色からしても発酵の結果が異なるのがわかる。
酒粕臭はまったくない。
極少量発酵では、こまめに撹拌して茶葉の粘着を防ぐので、茶頭はできない。布でくるんでいるので局所的に冷たくなりすぎたり、乾燥しすぎることもない。
では、なぜ今回失敗したかというと、局所的なムラはなくても全体的に偏りやすいということ。
全体が水を含みすぎる。全体が熱くなりすぎる。冷たくなりすぎる。乾きすぎる・・・など。大量の茶葉を堆積した状態に比べると、変化の波が大きすぎる。
さて、そこで考えついたのが「連続発酵」という方法。
発酵スタートの時差のある布袋2つをピッタリくっつけて、熱交換や水分交換をさせる。これによって大量の茶葉を堆積したのと似たような環境がつくれる・・・はず。

ひとりごと:
この仕事は研究成果を美味しいお茶で証明するしかない。
それしかない。
望むところだ。
当店のお茶を飲まずにブログを見て知識を得る人は、研究成果を得ていないことに気がついていないのだ。

巴達曼邁熟茶2010年 その1.

采茶 : 2010年4月
加工 : 2016年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山曼邁寨古茶樹
茶廠 : 農家+店長
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 小さめの蓋碗
西双版納の乾季の空
捨てた茶葉

お茶の感想:
熟茶づくりの渥堆発酵をスタートして14日め。
寝不足と筋肉痛に耐えながら、ひとりで黙々と作業している。
こういうの嫌いじゃない。
ひとりがよい。
他人の意見はまったく聞きたくない。
わからないことは、茶葉や微生物に直接聞いてやる。
お茶づくりは可能性の追求。
先人や教科書の言うことが間違っているかもしれないし、われわれの解釈に誤解があるかもしれない。
その時・その場所・そのモノの条件がひとつでも違えば、同じ結果にはならないかもしれないし、成功したようで実はそうじゃないかもしれないし、失敗したようで実はそうじゃないかもしれない。
他人を疑う。自分を疑う。
もうひとつの可能性を試してみる。
それで、やはり4回ほど失敗して合計28キロ分の茶葉をアパートの庭の土にした。
捨てた茶葉1
捨てた茶葉2
捨てた茶葉3
ミミズが喜んでいる。
失敗の原因は、茶葉に掛ける水の加減が分からないからだ。
春の茶葉、秋の茶葉、孟海県の茶葉、孟臘県の茶葉、散茶、圧延の餅茶を崩した散茶、それぞれの吸水性にあわせて適量の水をなじませるが、その加減がまだよくわからない。
渥堆発酵
渥堆発酵
茶葉に水を掛けてから黒麹菌が繁殖して活発になるまでのおよそ24時間。この時間がいちばん危ない。もしも黒麹菌が繁殖しなければ別の雑菌が繁殖するが、その前に、茶葉が酸化して酸っぱくなってダメになる。緑茶が紅茶みたいな色になる。
どうやら、黒麹菌は水に濡れた茶葉の酸化を止めるらしい。どういう仕組みで止めているかはまだよくわからない。
黒麹菌
手漉き紙についた黒麹菌。その名の通り黒い色素をもつ。
失敗と成功
失敗が左で、成功が右。わずかな色の違いがわかるかな。
幸いなことにこの結果に中間はない。
成功か失敗か、黒か白か。茶葉が緑を保ったまま甘くなるか、赤く変色して酸っぱくなるか。
はっきりしていてわかりやすいから、顕微鏡を覗いたり、検査局にサンプルを持ち込んだりする必要はない。見たり、嗅いだり、触ったりするだけでわかるから、どんどん試して分水嶺を見つければよいのだ。
版納古樹熟餅2010年
熟茶づくりの教科書は、自分にとっては『版納古樹熟餅2010年』がすべてである。種となる麹はこれを培養している。
6年の間、これより美味しい熟茶は見つからない。なので、なるべく近づけたらよいが、700キロもの晒青毛茶で行った渥堆発酵を、これからは7キロの少量で行う。
ここ数年の産地の変化、時代の変化により、上質な茶葉を大量に集められなくなった。
そのため、当店では2010年以降に美味しい熟茶が出品できていない。
7キロという少量での渥堆発酵が成功すれば問題は解決する。
日本人的に、もっと清潔に・もっと細かく・もっと動的に発酵の手伝いをしている。風邪で熱を出した子供を徹夜で看病する親のようなもので、油断ならない。不眠不休で活動する微生物に付き添って、自分が先に倒れないようにしないと。
西双版納の人にそういうキメ細かな気質はない。東南アジアらしい粘り弱さでいい加減な仕事している・・・ように見える。
しかし、これを軽く見てはいけない。
渥堆発酵で活躍する微生物たちにとっては、そのいい加減な仕事によってできる隙間が、むしろ好環境をつくりだしたり、その逆で厳しい環境を与えたりして、間接的な作用があって、結果的に美味しいお茶になっているのかもしれない。
あらゆる可能性を考えながら観察する。
巴達古樹熟散茶2010年
現在4種類の晒青毛茶を渥堆発酵しているが、今のところいちばん個性的な変化を見せているのはこれ。
『巴達曼邁熟茶2010年』(仮名)
曼邁はmanmai と読む。
2010年。そう、6年前につくった生茶のプーアール茶『巴達古樹青餅2010年』を崩して原料にしている。
巴達古樹青餅2010年
巴達古樹青餅2010年崩し
早春の新芽・若葉の棘味を黒麹菌は嫌うが、6年の熟成によってちょっと和らいでいる。この熟成に微生物発酵は関わっていない。成分変化のみだと思われる。
泡茶
渥堆発酵9日目。
加水2回めから24時間経過している。
まだ水分の多いときで熱を持っている。袋の中心あたりは50度を超えるが、1日に2回か3回はかき混ぜて熱を逃がしている。5日に1度ほどかき混ぜる以前のやり方とはかなり違う。
熱を持たないように、はじめから水を少なめにしたらよいのではないか・・・と思うかもしれないが、それは違う。わざと水を多くしているのだ。その理屈を話すと長いので別の機会にしたいが、ちょっといい感じの薬味が加わる効果を見つけている。
渥堆発酵の熟茶
渥堆発酵の熟茶
渥堆発酵中の茶湯は濁る。
味はスッキリ透明。お茶のお茶たる味は濃い。苦味は軽い。そして甘い。
『巴達古樹青餅2010年』の渋味は良いスパイスになって、ミントのような涼しさが口に残る。
まるでクラフトビールのような色だが、味もまたクラフトビールのよう。濃厚な味わいにして爽やか。原料の茶葉の持っていた陳皮のような香りも加わる。
葉底
この段階でも十分美味しいが、まだもっと深く発酵させる。加水4回めくらいが目標。
次回の勉強会は「お茶の微生物発酵」をテーマにしたい。
徹夜でやれるほど話すことがたくさんある。

ひとりごと:
ところで、『版納古樹熟餅2010年』を淹れるとき、
洗茶をしないでサッと湯をくぐらせるように抽出したとき、
版納古樹熟餅2010年
かすかな薄い色にもかかわらず、驚くほど甘くなっている。
湯が酵素の働きを促して甘味成分を瞬時に作り出しているからではないだろうか。
酵素は、例えば洗剤で知られているように、水分と温度を得ると瞬時に効力を発揮するものがある。
『版納古樹熟餅2010年』の茶葉の表面には、見えないけれど大量の酵素が残っている。

版納古樹熟餅2010年 その35.

製造 : 2010年7月
茶葉 : 雲南省西双版納州巴達山曼邁寨+章朗寨古茶樹2009年秋茶
茶廠 : 農家+孟海県の茶廠
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : ステンレス茶缶
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 景徳鎮の白磁の蓋碗大・小
白磁の蓋碗大・小上から
白磁の蓋碗大・小底から
白磁の蓋碗大・小碗

お茶の感想:
手元の蓋碗の大小2種を比べる。
水を満タンにして小は90cc大は140cc。
蓋碗の碗だけの重量は小は63g大は79g。その差16gしかない。
蓋碗の大きさに対して「小」のほうはやや厚みがあり「大」のほうはやや薄づくりというバランスだが、大小にかかわらず同じ厚さでつくられてこうなったという見方が正しいと思う。手づくりだから個体差はある。
今日もこのお茶。
+【版納古樹熟餅2010年】
版納古樹熟餅2010年
3.6g。
蓋腕小
蓋碗大
ほぼ同量の湯を注ぐことにする。
版納古樹熟餅2010年
版納古樹熟餅2010年
版納古樹熟餅2010年
淹れてみると、蓋碗大のほうは黒っぽい。
最初の煎から最後の煎(7煎くらい)までずっとこのような色の差がある。
蓋碗大の味は良い。口当たりがまろやかで、味に深みがある。甘味もある。
蓋碗小は口当たりがちょっとピリ辛い。味は軽くて深みがない。甘味も少ない。
香りの立ち方は似ているが、蓋碗大のほうが香りにも深みがある。
湯の温度に差があるのか?
ヤカンの湯は97度
沸き立ての湯。海抜600メートルくらいの西双版納では97度。
蓋碗に注ぐと90度くらいに下がる。
蓋碗大・小湯の温度
蓋碗大・小湯の温度
蓋碗に注ぐ湯の量は大・小ともに70ccくらいにそろえている。誤差はある。
結論から言うと、湯の温度の変化に蓋碗大・小の差はほとんどない。
注ぎたては同じ温度。
2分半ほど待っても、その差は1度ほどしかない。
保温力の差はほとんどないと言える。
北京の愛好家の蓋碗も測ってみた。
これは手元の蓋碗大と比べると少し保温力がある。
といっても、2分半蒸らしてからの温度差は1.5度ほど。
この微妙な温度差がお茶の味の差になっているとは思えない。
北京の愛好家の蓋碗
湯を注いですぐに茶湯の色の差が現れるのだから、茶葉の成分の抽出に、温度以外のなにかが大きく影響しているのだ。
「浸透圧」というのがある。例えば、シチューの具を煮込むときに塩を最後に加えるのは浸透圧を考慮しているから。最初に塩を加えて煮ると、肉は水分が抜けてワシワシになってしまう。塩分濃度の差が浸透圧を発生させるわけだが、こういうふうな目に見えない複雑なことが、茶葉と湯と茶器のあいだに起こっているのだろう。
感覚的に理解したいな。
形とか色とか手触りとか、指で弾いたときの音とか、手に取ったときのぬくもりとか、重さとか。
パッと直感でわかるようになりたい。

ひとりごと;
今日はこのお茶の整理。
『沈香黄片老茶磚80年代』(卸売部に出品)
沈香黄片老茶磚80年代
沈香黄片老茶磚80年代
いい顔しているよな。
そういえば、茶葉は感覚的にわかることがある。
茶器も経験を積めばわかるようになるだろ。

版納古樹熟餅2010年 その34.

製造 : 2010年7月
茶葉 : 雲南省西双版納州巴達山曼邁寨+章朗寨古茶樹2009年秋茶
茶廠 : 農家+孟海県の茶廠
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : ステンレス茶缶
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 景徳鎮の白磁の蓋碗2種
白磁の蓋碗2種横
白磁の蓋碗2種上

お茶の感想:
白磁の蓋碗2種のつづき。
ひっくり返して底を見ると形の違いがはっきりする。
北京の愛好家の蓋碗(左)はまるい。手元の蓋碗(右)は角ばっている。
水の流れ、水の振動、湯の熱の響き方が違ってくるよな。
今日はこのお茶。
+【版納古樹熟餅2010年】
版納古樹熟餅2010年計量
3.6g
餅茶は崩し方を同じようにしないと、塊のままと崩れてバラバラの茶葉とで味の出方が違ってくる。
熟茶のような発酵のすすんだ茶葉は一般的に熱い湯でじっくり抽出するのがよいと思われているがそうでもない。
このお茶のように旬のタイミングで采茶されていたら、小さな新芽や柔らかい若葉が多く、それなりに熱に敏感である。
香りを立てるため、一煎めから味を充実させるため、必ず湧きたての熱い湯をつかうが、煮出して濁った味にならないように、注ぎや蒸らしを注意したほうがよい。
白磁の蓋碗2種1煎め
白磁の蓋碗2種1煎め茶杯
1煎め。
湯を注いで、ちょっと蒸らして、蓋碗の蓋をちょっとずらしたときに香りが立つ。
この香りにすでに違いがある。
手元の蓋碗は苺のような透明感のある爽やかさがあり、北京の愛好家の蓋碗は糠のようないわゆる発酵香が混ざって香りが鈍る。
茶湯の色はこの時点で北京の愛好家の蓋碗のほうが赤味が強く、熱のとおった色をしている。
ところが、これから後の煎ではずっと手元の蓋碗のほうがやや黒っぽい色になる。
白磁の蓋碗2種3煎め
白磁の蓋碗2種3煎め茶海
白磁の蓋碗2種3煎め茶杯
3煎め。
白磁の蓋碗2種5煎め
白磁の蓋碗2種5煎め茶杯
5煎め。
香りの印象がそのままお茶の味の印象をつくる。
前回の『章朗古樹紅餅2016年・青印』のときとほぼ同じような違いが現れる。
+【章朗古樹紅餅2016年・青印 その4.】
手元の蓋碗は清らかで軽く上にぬける。
サラッとしたドライな感じ。
口に溶けて自然に喉を滑り落ちる。
北京の愛好家の蓋碗はやや濁りがあり重く沈む。
とろみのあるウェットな感じ。
口に残り喉に押し込むような抵抗がある。
葉底
葉底は同じ。
飲み比べると明らかに手元の蓋碗のほうが美味しい。
これは好みの問題ではないと思う。
どうしても北京の愛好家の蓋碗を使うのなら、蒸らし時間を短めにするために、ちょっとだけ茶葉を多めにするとよいかもしれない。
注ぎ切ってから底にある茶葉が煮えないように、茶針でちょっと起こして蒸気を逃してもよいだろう。
そのくらい気を使って手間を掛けてでも、苺のような香りの出るときの美味しさには価値がある。
嬉しくなって、その日一日が輝く。
版納古樹熟餅2010年煮出して飲む
蓋碗では抽出しきれない茶葉や茎の内側の成分を銅の器で煮出す。
弱火で5分ほど。
甘くてとろみのある茶湯。
はじめの3煎めくらいまではこの甘味やとろみを出さないように意識したほうがよいな。

ひとりごと:
メコン川からラオスのお寺
ラオスのお寺
ラオスのお寺の壁の絵
チェンコーンから河を渡ってすぐのラオスのファイサーイにあるお寺の鐘。
大型トラックのホイールと、ベトナム戦争のときの弾頭と。
いい音する。
お寺の鐘に弾頭
お寺の鐘にホイール
力強い造形。アートだ。

版納古樹熟餅2010年 その33.

製造 : 2010年7月
茶葉 : 雲南省西双版納州巴達山曼邁寨+章朗寨古茶樹2009年秋茶
茶廠 : 農家+孟海県の茶廠
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 軽い密封 紙包
茶水 : タイ・飲料水
茶器 : Klean Kanteenの保温ボトル
雲と鳥
雲と旗
チェンコーンへバスの窓の水滴
バスの窓から入道雲

お茶の感想:
バンコクからチェンマイの飛行機は早朝で、窓から下を見ると朝の白い太陽に水の反射がキラキラしている。蛇行する河とそこから網の目に広がる水路と、地平線まで延々とつづく水田と。それだけじゃない。陸の上であるはずの住宅地やその周りの空き地にもキラキラ反射する水面がある。水溜りや水瓶なのだろう。そういえばタイの人はよく水鉢に蓮などを生けているよな。
水鉢
この印象が今回の滞在中にずっとあって、頭のなかをグルグル巡っていた。
タイ水浸し。
雨季の続く9月後半。雨も毎日のように降る。空気中の水も多くてムッとしている。気温は高くて暑苦しくて、肌にはじっとり汗がにじんで乾かない。
逃げ場のない水。
水に身を浸しているような圧力。
2日間もいると骨にまで水が染みて芯から冷えてくる。
宿の部屋ではエアコンで空気を乾燥させるが、それでも関節が重い。寝汗をかいて深夜に起きる。
熱いシャワーで汗を流すとちょっと落ち着く。
身体の芯が冷えていることに気付いて、靴下を履いて寝るようにしたら寝汗はましになった。
タイの人や旅行者たちは氷の入った冷たい飲みものをガブガブ飲んでいるけれど、身体に水を貯めすぎて、しかも芯から冷やすことになる。唇の色にその兆候の現れている人が多い。
熱いお茶を飲むとたちまち汗が吹き出る。この汗は出したほうがよいのだ。
身体を芯から温めるお茶がよいな。
熟茶
生茶、紅茶、熟茶のどれが温まるかというと熟茶なのだけれど、そういう問題ではなくて、ひとくちかふたくちで背中のあたりに汗が出るようなお茶。
ちょっと濃いめに淹れた熱々の一杯。
はじめは苦くて後からスッキリ爽やか。

ひとりごと:
早朝の月
メコン川の空
メコン川
メコン川と小舟
チェンマイからバスに乗って6時間かけてチェンコーンに行って、パパイヤビレッジのハーブサウナを2回した。ヒリヒリするくらいのハーブの刺激が皮膚に染みて、おもいっきり汗をかいてスッキリした。
タイに住むなら家で毎日サウナできるようにしたい。
花
keep quiet
チェンコーンのタミラ
夜と月


茶想

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