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曼松古樹黄片小餅2014年 その4.

製造 : 2014年04月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県象明倚邦山曼松古樹
茶廠 : 象明の工房
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 西双版納―上海密封
茶水 : 京都御所周辺の地下水
茶器 : チェコの陶芸作家の茶壺
曼松古樹黄片小餅2014年プーアル茶

お茶の感想;
チェコの陶芸作家マルちゃん(マルティン・ハヌシュさん)の器は、お茶の味や香りをストレートに伝える。
そして煎がつづく。延々とつづく。
マルティン・ハヌシュの器
マルティン・ハヌシュの器
マルティン・ハヌシュの器
マルティン・ハヌシュの器
宝瓶のようにつくられたこの茶器には厚みがあって、保温力がすごくて、いちど熱い湯で温めて、さらに1煎め2煎めの湯の熱が入ってゆくと、あとは注ぐ湯の量が少なくても多くても同じような濃度のお茶が抽出できる。つぎの煎まで少々時間が空いても冷えない。ちょっとの湯を注ぐだけで十分熱い。だから一人飲み用にも使える。
マルティン・ハヌシュの器
薫る小葉種の黄片『曼松古樹黄片小餅2014年』(卸売部に出品中)
無骨な茶器の中でフワッと柔らかく薫るお茶。
黄片のわりに辛味が強くて、かと言ってはしゃぐことなく、スッと消えの良い味わい。
良くも悪くもならない。ほんとうにこの茶葉そのままの味わい。
静かな語り口のお茶が上等だとすると、土もまた静かな語り口のが上等なのかもしれない。
そんなことをつぶやいていたら、マルちゃんが思い出したように茶杯を持ってきて、これを試してみて欲しいと言う。
マルティン・ハヌシュの器
マルティン・ハヌシュの器
聞くと、「真実の丘」と呼ぶ小さな山にある洞窟に、一日かけて入って採ってきた古い地層の土でつくった茶杯。
鉄分が多いせいか赤味があり、高温焼きでは溶けるのでちょっと温度を下げてあるらしい。中国の宜興の土に似た性質もあるらしい。
これで飲むと、やはりお茶の香りや味はそのままで、水質だけが変わる。唇に当たるところから滑りこんでくるツヤツヤの水は、蓮の葉の上の水玉のように転がってから溶ける。
なぜ、ギャラリーの展示会に来るお客様にこの洞窟の話をしないのか?わかればもっと売れやすいだろうと言うと、マルちゃんは、まず器が好きになってくれた人にだけに話したいと言う・・・。
上等な器は静かな語り口なのだ。
マルティン・ハヌシュの器

ひとりごと:
マルちゃんの友達の和尚さんがお茶好きで、
「僕はかなり苦い渋いのが好きなのです!」
というのにもかかわらず、柔らかで静かな語り口の『丁家老寨青餅2012年』を出したので、やはり物足りないと言われた。
+【丁家老寨青餅2012年】
「原生の品種に近い森のお茶ほどこういう感じなのですよ。」
といいつつ、10煎は淹れただろうか。和尚さんはそれをずっと飲まれてから、なにかちょっと考えこむように俯いているので、大丈夫かなと思っていたら、
「僕は今日生まれ変わりました。」
と言われた。
静かな花

祈享易武青餅2014年 その2.

製造 : 2014年04月02日
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県漫撒山一扇磨
茶廠 : 上海廚華杯壷香貿易有限公司監製
工程 : 生茶のプーアール茶
形状 : 餅茶357gサイズ
保存 : 上海 紙包+竹皮+紙箱
茶水 : 京都御所周辺の地下水
茶器 : 小さめの蓋碗
プーアール茶ドットコムのお茶会
プーアール茶ドットコムのお茶会
プーアール茶ドットコムのお茶会
プーアール茶ドットコムのお茶会
プーアール茶ドットコムのお茶会

お茶の感想:
お茶を飲むときに、
ひとりで飲む。
ふたりで飲む。
友人や家族と飲む。
あまり知らない人たちの集まりで飲む。
それぞれに場の空気があって、
茶はその空気を吸う。
もしも、
小さな声のささやきに美しさのあるお茶を飲むなら、仲間と楽しくお喋りする空気に晒してはいけない。
人数の多いときにそんなお茶を飲むのなら、茶器を温める水音が聞こえるくらいに、いったん静まってもらうのが良いだろう。みんなの呼吸をととのえて、心が静まるのを待つ。
先日、当店のお客様が数人集まって、いっしょにお茶を飲んだが、やはりそこで印象に残るお茶とそうでないお茶があったと思う。
今日はこのお茶『祈享易武青餅2014年』。
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
温度を落として90度くらいで淹れてみた。
味がしない。薫らない。
それは同じだけれど、今回のほうがより軽く弾んで爽やかな印象がある。
「緑茶」に近い製茶だと思う。
茶葉の色に緑茶っぽさが現れないのは、殺青の前の萎凋がしっかりしているからだろう。
山では製茶場を見せてもらい、道具や製茶の工程について説明してもらった。
「殺青の時間が長すぎる」と、そのとき思ったが、おそらくそれが緑茶に近い仕上がりの要因。あまりにキレイに殺青されているから、焦げた味がしなくて、すぐにはわからない。
老茶はもっと軽発酵のすすんだ青茶に近いものだったというのが当店の考えにあるが、その「軽発酵」というのは、殺青の前の工程で得られるものではなく、殺青の後の工程で得られるものということかもしれない。
煎を重ねても変化が少ないのもまた緑茶的な性質を表している。
上海の老板は老茶のプーアール茶を知らない。きっと緑茶で育った人だから、「緑茶」の観点を重要視しているのだ。

ひとりごと:
南座
老茶のプーアル茶
左: 『七子紅帯青餅』1970年代
右: 『早期紅印春尖散茶』1950年代
老茶はここまでくると、その場の空気を吸うこともなく、いつでもどこでも同じように何煎でも滔々と語る語る。

祈享易武青餅2014年 その1.

製造 : 2014年04月02日
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県漫撒山一扇磨
茶廠 : 上海廚華杯壷香貿易有限公司監製
工程 : 生茶のプーアール茶
形状 : 餅茶357gサイズ
保存 : 上海 紙包+竹皮+紙箱
茶水 : 京都御所周辺の地下水
茶器 : 小さめの蓋碗
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶

お茶の感想:
秋の終わりに一扇磨を訪ねた。
ほんの2週間前のことなのに、西双版納(気温25度)・上海(気温3度)・京都(気温8度)と長い距離の移動と気候の変化に疲れた身体を、縄のれんの掛かる居酒屋の熱燗で癒すと、西双版納の山はずいぶん遠い昔の記憶みたいになってくる。
一扇磨は旧六大茶山「漫撒山」の一部。現在の地名で言えば易武山の一部。
西双版納の昔のお茶を追いかける者にとっては最後の聖地のひとつである。「弯弓」や「倚邦」の奥地のように、かつて清代1800年代には貢茶のお茶どころで、山奥の村々は栄えていた。歴史の紆余曲折により現在は人里離れた自然に還り、数百頭の馬が通った古道の石畳は密林に埋もれ、山の一部は国有林となって保護されている。
200年もの間、茶樹は深い森の陰にひっそりと生き続けていた。
一扇磨のお茶をはじめて口にしたのは2009年だった。易武山の茶荘で「刮風寨」・「弯弓」・「一扇磨」の3つを飲み比べる機会があった。つまり、2009年にはすでに現代の開拓者が再び山に入って、野生化した茶樹のお茶づくりをはじめていたことになる。「プーアール茶バブル」と呼ばれて西双版納のお茶の人気が沸騰した2007年から、このような試みがあったと思われる。
それまでは、「落水洞」・「麻黒」などの古い農地の残る有名寨子(村)の古茶樹のお茶といっしょくたにして売られていた。
自分の土地を持たない生き方をする移住の民の「瑶族」(ヤオ族)は、深い山にお茶を採りにゆく。その鮮葉(加工前の摘みたての茶葉)や晒青毛茶(炒って揉んで干したカンタンな天日干し緑茶)を、有名寨子の農家や易武山の茶荘が買い取って製品にする。その買取価格は村のお茶よりもずっと安かったと聞いている。
ほんの数年間で状況は変わった。
200年もの間、深い山にひっそりと生きてきた茶樹は、深い眠りから叩き起こされたような感じだろうか。
弯弓では高値のつく森の茶の権利をめぐり瑶族の村と村とが武力衝突した。刮風寨では早春に200キロしかつくれないはずの古樹茶が数十トンもつくらるようになった。一扇磨からラオス国境にかけての国有林がなぜか民間で売買され、北京からの使者が来て汚職の粛清がはじまろうとしている。
しかし、森の古茶樹にとってもっとも危機的な変化は、この漫撒山一帯で起こっていることではない。むしろ漫撒山の周辺である西双版納の全体、いや、もっと言うと世界全体に起こっている変化なのだ。車のタイヤをつくるゴムの木と、バナナの栽培バブル。この二つの作物によって熱帯雨林の森は失われ、地域全体の空気が乾燥し、気候が変わりだした。この二つの作物に大量に使用される農薬や化学肥料が地域全体の自然環境を汚染しつつある。すでに汚染されて不健康な山しか知らない人の眼から見たら、緑さえあればそれで自然と勘違いしやすいけれど、健康な山は違う。その美しさには神が宿る。
茶樹は環境に敏感な生きもの。
たとえ周囲が森に囲まれていても、乾いた空気や日照の変化に反応する。茶葉に宿る成分に変化が起こり、お茶の味を変える。
森林の伐採はこれからも続くだろう。経済発展にあわせた消費生活が文明的であると勘違いされて、もっと収入を求める農家による茶葉の乱獲は続くだろう。
深い森の古茶樹には、乾燥や気温の変化に弱い品種もある。周囲に森を失った茶山の気候は変わって、枯れ死ぬ古茶樹もあるだろう。すでにそんな枯れ方の茶樹をあちこちで見ている。
さて、この変化をどう考えるか。
現地の茶業に関わる人々にこの問題を知らない人は居ない。みんなそれなりに肌で感じているはずだ。しかし、どういう態度で、どういう行動を起こすかは人それぞれ。
この問題に、ひとつの回答を出そうとする人に出会った。
秋の終わりの漫撒山で、現地の工房の老板(オーナー)が紹介してくれたその人は、海南島生まれで上海で茶荘を営み、年の半分以上を西双版納の山で過ごしている。おなじく漫撒山のお茶を求めてうろうろしている日本人の噂をどこかで聞いていたらしく、自己紹介もそこそこに、上海の老板はこう切り出した。
「一日歩くことになりますが、うちの茶山を見に行きませんか?」
その山が一扇磨の方向にあることを知ったのは、そこへ行くには一番近いとされる村に車が停まったときだった。
「まさか、ここから歩くのではないでしょうね?」
「そうです。ここから歩きます。」
「丁家老寨まで車で上がれば、そこからバイクで1時間半で行けると聞いていますが・・・。」
「そのバイクで行けるところから、さらに1時間半歩いたところにうちの農地があります。ここからは歩いて3時間半です。」
一扇磨
一扇磨
ホンモノの一扇磨に行けると確信した。
(地元の案内人は遠出を嫌って、その辺を適当に案内して騙すことがある。ニセモノはお茶だけではない。)
もともとそのつもりだったから、山登りの準備はある。一泊くらい野宿しても平気・・・と思っていたが、途中から携帯電話の信号が届かなくなる。上り坂が2時間も続くと息が上がる。崖の上から谷底を覗くと汗が冷たくなる。
一扇磨
道中には一扇磨のニセモノをつくるための農地開拓がすすんでいる。
苗を買ってきて植えられた若い茶樹。ホンモノは200年以上も森の陰に育っていたのだから見たらすぐにわかる。
山に深く入るほどに植物の様子が違ってくる。
ところどころに野生状態に育った茶樹が見つかるようになる。
一扇磨の野生茶樹
一扇磨
漫撒山一扇磨
漫撒山一扇磨
漫撒山一扇磨
漫撒山一扇磨
(いずれ店のサイトに写真ページをつくる。)
3時間半歩いて、青空が見える山頂付近の開けたところにキャンプがあった。
山小屋というよりはキャンプ。
軍隊の使うタイプの大きなテントがいくつも設置されて、仮設トイレ(山の環境を汚さないようカンタンな自然の浄化設備がつくってある)があり、仮設シャワー室まである。山岳民族の苗族(ミャオ族)の家族が10人ほど雇われて住み込みで働いている。
密林では植物が圧倒的優位な立場にいるから、例えば、山道の草刈りを2ヶ月も休めば緑に覆われて道をなくす。水源の確保、自給自足のための野菜の栽培、すべてをこの地で自足せねば、いちいち3時間半の山歩きで物資を運ぶことになる。
一扇磨のキャンプ
一扇磨のキャンプ
一扇磨のキャンプ
一扇磨のキャンプ
だからこの地が選ばれたわけだ。
あまりに山が深くて不便なので、借地権を所有していた農家は数年前までほとんど手を付けていなかった。古茶樹ブームで価格の高騰とともに山の開拓がはじまり、いよいよ奥深いここの森林が伐採され始めた昨年に、上海の茶荘の老板は山の借地権を買い取って森林の伐採を止めた。丁家老寨にも伝わる古い栽培手法の「熟した枝づくり」により、枝の剪定を止めた。手入れは草刈りだけ。もちろん無農薬・無肥料。
2014年の春、この山でのお茶づくりがはじまる。
志を共にする江蘇省の茶荘の老板が山の管理を手伝うようになり、彼はすでに3ヶ月もキャンプを離れていない。
このキャンプで、秋のつくりたての晒青毛茶を、沢水で沸かした湯で飲んだ。
そのお茶は、味がしない、薫らない。
かといって水っぽいわけでもない。一瞬だけ苦味・渋味が走って消える。後味にほのかな甘味が残る。淡いを通り越して透明な液体。舌をヒリヒリ痺れさせる後味。4煎めくらいから甘味が増して、5煎めになると風呂上がりの酔い心地。味わうというよりも、山の霊気を飲むお茶。
同行した広東人の茶飲み友達は、これほど味も香りもないお茶は初体験だった。しかし、さすがにこの深い山の森林と、健康な古茶樹と、彼らの真剣な仕事を見て、面と向かって批判できない。
「あのお茶、どう考える?」
山を降りてから広東人が僕に意見を求めるが、自分もまだ消化しきれていない。
「上海に行って春の餅茶を手に入れることにする。」
上海の茶荘の老板もその頃上海に戻るというから、その数日後に直接会ってきた。
祈享易武青餅2014年プーアル茶
「古玩城」と名付けられた骨董屋さんやお茶屋さんの集まるデパートのような新しい施設に茶荘はあった。
このお茶『祈享易武青餅2014年』は、357g標準サイズの餅茶で定価2600元(約5万円)。今年の商品は、この春のと、ちょっと安めの秋のと、2種類だけ。過去のお茶にはいろいろな有名茶山のコレクションがあるが、上海の茶荘の老板はもうそれらには興味がない。
店がどんなことになっているか、商売がどんなことになっているか、いっぺんにわかった。もちろん、この経過については想定内で、我慢の時間なのだろうけれど、どこかに焦りの色を見てしまう。
「じっくり飲んで、また来て感想を話します。」
そう伝えた。
これから一枚をじっくり飲む。今日はその一回目。
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
やはり秋のお茶と同じ。味がしない、薫らない。
一瞬だけ苦味・渋味が走って消える。後味にほのかな甘味が残る。
淡々と、何煎も何煎も続く密度の濃い水質。味や香りの成分が存在しないわけではない。姿を隠しているのだ。

ひごりごと:
これと同じ語り口の、味のしない薫らないお茶に思い当たりがある。
『丁家老寨青餅2012年』をつくったときに、季節の最後に大きな2本の茶樹から採取した茶葉。そのお茶を飲んでみた。
祈享易武青餅2014年プーアル茶
祈享易武青餅2014年プーアル茶
丁家老寨青餅2012年プーアル茶
と易武老街青餅2014年プーアル茶
ほとんど同じようなお茶だった。
製茶の調整の違いで『丁家老寨青餅2012年』はやや味がわかりやすく、香りも立つ。
しかし、ほぼ同じ言語を話している。丁家老寨と一扇磨とは距離が近い。やや海抜の高い気候や、そこで育まれた茶の品種も似ているのだろう。おなじ山続きの弯弓とは気候が異なり、茶の語り口も異なる。
上海の茶荘の老板の試みは、こうした生態環境の差だけではない。
「用心」の丁寧なお茶づくりの成果を問う仕事。知らない人が飲むことになる茶葉を、愛情もなくまるでゴミのように雑に扱う農家や現地の茶商に、指一本触れさせない仕事。その仕事のできる環境を、車もバイクも入れない山奥に整えたのは、これが初めてだろう。
このお茶からなにを学べるのか、まだよく分からない。
けれど、ひとつはっきりしているのは、自分もこの方向へ行くということ。

革登単樹秋天散茶2014年 その2.

製造 : 2014年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県象明革登山大葉種古樹・単樹 
茶廠 : 革登山農家
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 上海 密封
茶水 : 上海のミネラルウォーター
茶器 : 小さめの蓋碗
上海
上海
上海
上海

お茶の感想:
上海のお客様へお茶を淹れた。
友人のお店に当店のお茶ファンが何人か居るらしく、直接会える機会をつくってもらった。
最近のお茶の話をするにふさわしいこのお茶『革登単樹秋天散茶2014年』を選んだ。
自分が今、西双版納でなにをしたいのか、古茶樹はまだ健康か、山は、自然は、業者の仕事は、農家の生活は、このお茶がすべてを語ってくれるだろう。
「人民元の臭いのするお茶はもういらない。」
お客様のひとりがはじめにこう切り出した。上海のお茶市場もまた荒れている。お客様の心の痛みもこの言葉に現れている。
今回のお客様は全員中国人の30代から40代。上海で会社を経営しているなどして高級茶を買うお金とそれを楽しむ時間の余裕のある人達だった。しかし、高所得者市場を狙う汚れた商売、茶道的精神のわざとらしい演出、それに汚されたお茶の味。文化的な精神を渇望するほどに食い物にされる消費者のひとりであることを思い知る。経済社会に生きながら、またその仕組みを利用して成果を得ながら、深く暗く濁った淀みをお茶に見てしまう悲しさには、われわれ業者よりも純粋なお茶ファンのほうがむしろ心を痛めていることだろう。
このようだったので、あまり話さないようにした。
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
お茶の紹介は必要最小限に。
質問があればカンタンに答える。
雑談はなしで。
お客様にお茶の小さな声を聞ける姿勢をつくってもらった。
お茶の声は、経験がないと理解できない言葉がある。
舌触りの心地よさ。喉のとおりのキレイさと涼しさ。透明な味。旨味の少なさ。甘味の消える美しさ。内気で長く響く香り。体への当たり(酔い心地)のやさしさ。舌にかすかにヒリヒリ痺れる感覚。
これらは単樹のお茶の健康を表す言葉。
ちょっと濃くしても透明感を保つ茶湯。何煎でも淡々と淡い色。熱い湯気に炎のゆらめくような茶気。舌に少し残る苦底の消えの良さ。香りの立ち方・消え方。
これらは製茶農家の技術を表す言葉。
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
このお茶『革登単樹秋天散茶2014年』は、78歳のお爺ちゃんが一人で殺青・揉捻したお茶。若い人ほどチカラもスピードもないが経験がある。
瓦と茅葺きの古い家。大事にされている道具。薪は2年ほど寝かせてありトロトロ揺れる最高の火になる。茶摘みはアルバイトを雇っているので、やや雑な感じがするが、それもまた良し。秋の最後の最後、カラッと晴れた空の強い光線と、冷たく乾いた空気で一日で天日干しが完了している。
すべてをひっくるめてひとつのお茶の個性。
老人と同じで穏やかなお茶の表現に、飲んだ人すべてが癒やされる。
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶

ひとりごと:
空港へ向かうタクシーの運転手のおじさんがお茶好きで、最近プーアール茶にハマっているらしくて、いろいろ質問された。
「今日はいろいろ勉強させてもらって、ありがとうございました。これから精進してゆきたいと思います。」
降りるときにそう言われて、いつのまにか先生になっていて、恥ずかしくなって、旅の途中で飲むための数煎分の『版納古樹熟餅2010年』の崩しを渡した。
大事なことはこのお茶が語ってくれる。

革登単樹秋天散茶2014年 その1.

製造 : 2014年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県象明革登山大葉種古樹・単樹 
茶廠 : 革登山農家
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納 密封
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 小さめの蓋碗
プーアール茶旧六大茶山
プーアール茶旧六大茶山

お茶の感想:
西双版納孟臘県旧六大茶山を巡ってきた。
現在の地名からは易武と象明の2つの地域からなる。
まだ行ったことのない奥地がある。
毎日毎日、朝から晩まで、山から山への移動だった。
旧六大茶山をつなぐ路線は、明代1600年代から清代1800年代にかけてつくられた貢茶の古道。茶馬古道と呼ばれるが、チベットへ征く西南シルクロードの茶馬古道とは違う。目的が違う。お茶も違う。
「貢茶古道」の「易武晒青茶」とでも呼んで分けたほうがよいと思うが、そうはしないのだな。そこが渋い。
古道は、車・バイク・徒歩を組み合わせて5日間かけてもその一部しか巡れない。このことからしても、かつてのお茶どころの壮大さが伺える。
山頂付近では各山のてっぺんが見える。
 プーアル茶旧六大茶山
 プーアル茶旧六大茶山
 プーアル茶旧六大茶山
地図を片手に、あっちが「倚邦山」、こっちが「刮風寨」、だったら右に見えるのは「一扇磨」で、左に見えるのは「革登山」のはず・・・と確認しながら山から山へ。
地元の人たちが現在も利用する生活道と古道とは一致しているところが多い。石畳の道は失われ、馬での輸送もこの数年でなくなって、バイクや車が砂埃を上げて走る。徒歩でしか行けない道や、密林に埋もれて失われた道もある。
旧六大茶山
古茶樹のある山は3つのタイプに分けられる。
ひとつは、清代から現代までずっと農地を保っているところ。
もうひとつは、清代末期に廃れていったん自然の森林に戻っているところ。
そして、この数年で再度開拓されて森林から農地に戻ったところ。
茶樹は環境にとても敏感な植物で、おなじ品種であってもそれぞれの環境にそれぞれの風味を茶葉に宿す。日照・気温・湿度・風・土質・水質・海抜・周辺の植物・虫や微生物などなど、それぞれの条件にぞれぞれの味のお茶ができるから、バラエティーに富む。
「どれが一番良い条件なのか?」
同行した広東人はまっすぐに突き進むタイプなので、ひとつの正解を求めたがるけれど、それは難しいと思う。
今年の夏から秋にかけては例年よりも雨が多く、香りと味のしっかりノッたお茶を探すのが難しかった。
例年なら11月になるともう冬で、茶は芽を出さなくなるが、今年はちがう。しかし茶商はもう山に来なくなって、あちこちの農家に季節の最後の晒青毛茶が余っていた。たくさんの中から選べるチャンスだったが、ほとんどが「水味」の強いお茶で、香りも味もノッていなかった。
森林が深いほど土に水気が多い。その点で日照が確保された農地は比較的乾燥している。農地のほうが味がノルのではないか?と推測した「革登山」のお茶。
推測が当たったのかどうかは不明だが、古い農地のこのお茶は特別に薫った。
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
一本の大きな茶樹から採取する「単樹」。
11月24日、ハシゴを掛けて、3人がかりで半日かけて茶摘みされた。晒青毛茶になったのは3キロ弱。単樹としては収穫量の多いほうで、このことからも日照の多い農地であることがわかる。
『革登単樹秋天散茶2014年』は、これから卸売部に出品の予定。
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶
革登単樹秋天散茶2014年プーアル茶

ひとりごと:
昔のお茶の再現というテーマにおいて、自分よりもずっと先をゆく試みをしている人に山で出会った。
清代末期に廃れていったん自然の森林に戻っていた農地で、樹齢何百年の古茶樹がたくさん生きて残っている。近年に乱開発されかけた森林の借地権を買い取って、理想の生態環境を戻しつつ、その山に建てた山小屋で手づくりのお茶をつくる。山小屋が必要なのは、その森林が徒歩で3時間半もかかる山奥だから。雇用人だけで森林を管理して、お茶をつくり、市場の乱れに影響されやすい農家は介入させない。
ひとつの正解を探すのではなく、ひとつの答えを出す試み。
旧六大茶山のお茶
旧六大茶山のお茶
旧六大茶山のお茶
ひとつの答えを出すためには、別の可能性を探るのをあきらめないといけない。
それはけっこう勇気がいる。
たとえ理想の環境で理想のお茶づくりが実現できても、銘茶は美人。生まれながらの素質にはかなわない。わかっていても、それでも自分なりの答えを出してみたいのだな。
はじめからわかっていることなら、答えを出してみる価値もない。

漫撒三家青餅2014年・秋天 その2.

製造 : 2014年10月28日
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県漫撒山三家寨古茶樹
茶廠 : 易武山の工房
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 西双版納 紙包密封
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 小さめの蓋碗
漫撒三家青餅2014年・秋天プーアル茶
漫撒三家青餅2014年・秋天プーアル茶


お茶の感想:
ふんわりした舌触り。
深く透明な甘味。
シュワシュワと消える苦味・渋味。
トロリと落ちる官能の喉越し。
そうなのだ。このお茶は先日紹介の『倚邦古樹青餅2014年・秋天』のような、辛味にも似た刺激的な渋味は無く、あくまでも穏やか。素材の持つチカラを静かに表現する。これぞ秋の豊潤。豊潤というより豊満という感じか。脂の乗ったサンマのような旬の豊かさを感じさせる。
春とか秋とか言う必要のない美味しいお茶。
積極的に薫らない「涼香」は、冷めながら薫る。熱いひとくちに薫らなくても、後から吐く息に、部屋の空気に、杯の底に、静かに漂う。
漫撒山のお茶の静かな語り口は、春よりもむしろ秋のほうが個性的かもしれない。
漫撒三家青餅2014年・秋天プーアル茶
漫撒三家青餅2014年・秋天プーアル茶
漫撒三家青餅2014年・秋天プーアル茶
易武山のお茶ファンのみなさま、このお茶を是非一枚お求め下さい。
仲間で集まってお茶会をするときなどに、このお茶を持ってゆくのです。
みんなは自慢のコレぞというアピールの強い春のお茶を持ってくるでしょう。熟成20年以上なら別ですが、若いお茶は2つか3つ飲むともう疲れます。そこに、この穏やかなお茶。お茶の癒しのチカラがどんなものかを、このお茶が語るでしょう。
漫撒三家青餅2014年・秋天プーアル茶
漫撒三家青餅2014年・秋天プーアル茶
漫撒三家青餅2014年・秋天プーアル茶
いつもより、ちょっと茶葉多いめ。
しかし、秋のお茶だからといって濃く淹れる必要はありません。むしろ淡く淹れましょう。森の古茶樹の素質を信じて、茶葉に身を委ねるように、ぼんやりした味の茶湯になったらそれで十分。
静かな語り口に耳を澄ませるうちに、言葉を失います。なにか話したかったことなどは、氷のように溶けてカタチを失って、どうにでもよくなることでしょう。
そうなったら、お茶会はすでに円を閉じています。
漫撒三家青餅2014年・秋天プーアル茶

ひとりごと:
ベルギー人は易武山のお茶の味に二律背反のあることを指摘している。
年代モノのウィスキーもそうらしい。
矛盾が共存しているのではなく、各層に分かれているのだな。
多層構造が魅力につながっている。

倚邦古樹青餅2014年・秋天 その3.

製造 : 2014年10月28日
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県象明倚邦山小葉種古樹
茶廠 : 易武山の工房
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 西双版納 紙包密封
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 小さめの蓋碗
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶

お茶の感想:
旧六大茶山のお茶をつくるなら、
昔の銘茶の味を寸分の狂いもなく再現したい。
大工さんが木を相手にピタッと寸法を合わせるように、茶葉を相手にピタッと味を合わせるのだ。知っている人にはひとくちで「コレ!」とわかる味。
味は、それを感じる側の感覚器官に面白い性質があって、曖昧なところもあるが、お茶やお酒の鑑定のようにわずかな違いを聞き分けることもある。
脳の担当する味の記憶は、思い出そうにも思い出せないが、同じのを飲めば「コレ!」とわかるし、ちょっとでも違えば「オヤ?」と思う。
だから、銘茶の再現は、仕事の成果がわかりやすい。
ちょっとの違いの原因を探り、手段を探り、結果を検証する。また原因を探り、手段を探り・・・と繰り返し、向かうべきところへ一歩一歩近付いてゆく。つくり手もお客様も完成度のわかる仕事なのだ。
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
例えば、創作料理と日本料理。
創作料理は、美味しくてお得感があればお客様は満足。しかし、日本料理はそうはゆかない。銘茶のようにコレ!という味があるからだろう。
歴史の断絶があった生茶のプーアール茶づくりは、今、創作料理と日本料理のように、いろんな方向へ拡散している。
新しいお茶。
新しいのに伝統であるとつくりごとをするお茶。
銘茶を再現しようとするお茶。
銘茶の再現の真似ごとをしようとするお茶。
などなど。
市場では「新しいお茶」が主流になってきた。味の経験のないお客様に新しい味を提供するのが付加価値をつくりやすく、商売として成立しやすい。まさに創作料理。
その流れには逆行して、当店は徐々に銘茶の再現を意識しつつある。日本料理を修行する人のように、仕事の完成度を確かめたいのかもしれない。
旧六大茶山のひとつ「倚邦山」のお茶が今年は多かったが、偶然ではない。倚邦山の茶葉を使った過去の銘作をコレ!と特定はできないが、1970年代の国営孟海茶廠の配方のお茶に、倚邦山の茶葉をブレンドしたのがあると推測している。手元のお茶が熟成してきたら、はっきりするだろう。
昔の生茶の銘茶の記録に、秋茶は無かったはず。
しかし、お茶づくりは可能性の追求。
同じ茶山の春と秋とを比べて、その差異から春の性質をより理解できるだろう。また、現場では春に秋の晒青毛茶を偽って混ぜられても、試飲で見抜くことができるだろう。あるいは、みんなが知らないだけで、秋の茶葉の特性を利用した銘茶が過去にあった可能性も考えてみたい。
『倚邦古樹青餅2014年・秋天』(卸売部に出品)
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
左: 倚邦古樹青餅2014年・明後
右: 倚邦古樹青餅2014年・秋天
今日は春と秋の味比べをする。
どちらも、原材料となる茶葉には満足している。春の「明後」は、頭春(早春)ほどではないが、国有林の森の第一波(初摘み)のもの。秋もまた国有林のさらに深い森の、年に2度しか摘めない茶葉。
倚邦古樹青餅2014年プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年プーアル茶
左: 倚邦古樹青餅2014年・明後
右: 倚邦古樹青餅2014年・秋天
香りは同じ。
春のほうがやや濃いが、秋の香りがボリュームとして負けてはいない。香りだけで春と秋を判別するのが難しいくらい接近している。
この香りの特徴ゆえに倚邦山のお茶は真贋を判定しやすいが、もしかしたらそこが貢茶ブランドに曼松および倚邦の茶葉が選ばれた理由なのかもしれない。昔から偽物対策は頭の痛い問題だったのだろう。
違うのは味と水質。
春はジューシーで、水質に密度がある。ひとことで言えば濃い。
秋はふわっと甘くてサッパリ。水質の粒子の粗さはむしろ軽さにつながって悪い印象はない。ひとつ欠点があるとしたら、後口に舌をシワシワ刺激する渋味。
これは泡茶の技術である程度カバーできる。ちょっと湯の温度を下げるとよいのだ。
倚邦古樹青餅2014年プーアル茶
80度くらいの湯でじわっと抽出。こうすると香りはちょっと弱いが、渋味は気にならなくなる。
煎を重ねて気付いたのだが、春のほうは1煎・2煎・3煎・4煎・・・と、煎を重ねるごとに少しずつ異なる表情を見せてくれるが、秋のほうは最初から最後までやや単調。耐泡(煎が長く続く)はあるものの、単調なのは煎を重ねる好奇心をソソらないから、実質的に耐泡がないと見ることもできる。
倚邦古樹青餅2014年プーアル茶
左: 倚邦古樹青餅2014年・明後
右: 倚邦古樹青餅2014年・秋天
葉底は手触りがちがう。春はやわらかくフワフワで、秋はゴワゴワ。茶葉の繊維の弾力の違いが、圧餅の効果にも現れている。

ひとりごと:
ところで、
最近周囲にお茶を勉強する人が増えて、毎日質問を受ける。
ベルギー人は、西双版納に8年住んでいながら、今年はじめてお茶に目覚めた。本やネットに向き合って、専門用語、分類・定義・概念、成分の化学反応を詳しく説明できるようになったが、お茶をほとんど飲んだことがない。茶山にも行っていない。言葉で説明できることが重要らしい。
広東人は、西双版納に移住した今年から勉強をはじめて、現地のあらゆる店を訪問し、茶山も訪問し、試飲をくりかえし、経験を積んでいるが、「どちらが正しいか?」「どちらが上等か?」「コストパフォーマンスは?」と、初心者にもわかる標準をつくりたがる。将来は大きな商売をするつもりだろう。その方向は、すべてを安モノにしてしまう消費社会の宿命を背負っていることを、考えてはいないと思う。
北京人は、喫煙とファーストフード好きのせいで味覚音痴で、実はお茶の味がわからない。朋友!朋友!と仲良くしていた茶商たちにひどいお茶をつかまされて、人間不審に陥っている。あの人は良いとか悪いとか、それでもなお人を見てお茶を選ぼうとしているが、人を見極めることのほうが、茶葉を見極めることよりも難しいとは思っていない。
お茶という同じひとつのテーマを学んでいるように見えて、それぞれに学んだ結果はちがってくる。
結局、学びたいと心に願っていることしか学べないのか・・・。
「お茶を勉強しています」という人に出会ったら、「なにを勉強しましたか?」と聞くことにしよう。

布朗大樹熟茶磚2014年 その1.

製造 : 2014年3月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県布朗山古茶樹2008年
茶廠 : 孟海県南峡茶廠
工程 : 熟茶のプーアル茶
形状 : 磚茶500gサイズ
保存 : 西双版納孟海県
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 小さめの蓋碗
西双版納孟海県
西双版納孟海県

お茶の感想:
孟海へ行ってきた。
今回の狙いは熟茶。
雲南省西双版納州孟海県の熟茶。
熟茶というカテゴリーのお茶ができたのは、1973年に『73厚磚』が出品されてからになるが、たった40年そこそこで熟茶が全国区のお茶となったのは、懐かしい味だからだろう。
参考ページ
+【73白紙特厚磚プーアル茶】
熟茶の微生物発酵「渥堆発酵」の技術は、歴史のある黒茶づくりの応用。生活と自然観察の長い長い歩みのつづきであって、ポンと生まれた発明ではない。
また、発酵という観点では、お茶だけでなく様々な発酵食品につながる。そのせいか、いつかどこか出会ったような気のする風味が混じっていたりする。
最近、タイのある銘柄のナンプラー(魚醤)にちょっと似た香りのがあるのを見つけた。
ソムタム
(ナンプラーといえばソムタム)
魚と茶葉。まったく素材の違う発酵食品なのに、似た香りが混ざるのは、もしかしたら発酵に活躍する何種類もの微生物のなかに親戚関係のが居るのかもしれない。
熟茶の有名銘柄といえば、1980年代くらいまでは国営時代の「昆明茶廠」だったはずだが、いつのまにか西双版納の「孟海茶廠」とになったのは、おそらく1990年代の「宮廷プーアル茶」のヒットによると個人的に推測する。
宮廷プーアル熟散茶03年
(『宮廷プーアル熟散茶03年』卸売部に出品中)
2000年代には生産量で「孟海茶廠」がトップになっているはずだ。
深く重く渥堆発酵された濃厚な味。味とはギャップのある花の蜜のような爽やかな香り。
過去に扱った1998年のこのお茶がまさにそうだった。
+【大益貢餅熟茶98年】
(このお茶は「宮廷プーアル茶」そのものではないが、系統は同じ。むちゃくちゃ美味しかった。)
粗茶葉中心でつくられる昆明茶廠の熟茶に対して、新芽・若葉をふんだんに配合する孟海茶廠の熟茶。昆明茶廠から孟海茶廠の銘柄に人気が移ったのは、人々の生活の変化が背景にあると思う。
生活のお茶から、余暇のお茶へ。
この流れでゆくと、2000年からはさらに高級感のある熟茶が出てきても良いはずだが、そうはならなかった。2004年の国営大手茶廠の民営化と、2007年までの「プーアール茶バブル」と呼ばれる人気の過熱により、マーケットが荒れて、お茶づくりもむちゃくちゃになってしまう。
比較的量産される熟茶のほとんどが、より安い原料を求め、つくり方も粗雑になる。売り方も右から左になる。現地では「ゴミ茶」と呼ばれるが、ほんとうにゴミのように扱われるのを見るとショック。食べものを粗末にする態度では、過去の熟茶を上回る品質のものができるはずがない。
ちゃんと素材を選んだり、丁寧なつくり方をした熟茶がでてきたのは、この数年のことだろう。そのようなわけで、熟成10年モノになる2004年くらいのを探すのはあんがい難しい。
孟海県の熟茶プーアル茶の茶商
孟海県の熟茶プーアル茶の茶商
孟海県の熟茶プーアル茶の茶商
(孟海県には熟茶専門の収茶商人の店がいくつかある。)
今回見つけたこのお茶(下の写真の)は2008年の熟茶。
孟海県布朗山の古茶樹。
布朗大樹熟茶磚2014年
布朗大樹熟茶磚2014年プーアル茶
古茶樹といっても、熟茶に使用するのは一般的に旬を外した夏の雨の季節の茶葉になる。なので、甘さはあっても茶気・香気に欠け、水質に密度がなく、精彩に欠ける。このお茶はその点で、もともとは生茶にするはずだった旬の茶葉を原料にしたらしいので、試す価値アリと思った。2008年はバブルの後、需要が大きく減ったので、生茶をつくっても売れない状況があった。熟茶にしておくと長期保存が安定する。
また、もうひとつ製法上で興味深い点がある。
渥堆発酵を終えた散茶のまま、今年まで圧延加工しなかったというのだ。2008年から2014年までの6年間、散茶のまま保存されていた。
これはたぶん珍しい。
布朗大樹熟茶磚2014年プーアル茶
一般的には圧延加工してから長期熟成する。
生茶は圧延加工してからの長期熟成が断然よいが、熟茶の場合はどうなのだろう?
圧延加工前の散茶は、渥堆発酵の後にしっかり乾燥させて袋詰めされている。この状態では、渥堆発酵に活動していた菌類は休眠状態であるが、散茶用の袋は空気を通しやすい。湿気を吸う。適切な温度と湿度があれば、すぐにでも微生物発酵がはじまるだろう。
つまりそういう意味で「生」なのだ。
圧延加工の蒸気の熱と、その後の熱風乾燥による熱が、「火入れ」となって、微生物はいったん死滅して、茶葉の状態は安定する。
ところが、この散茶は火入れのないまま6年間を過ごした。夏の雨季には空気中の水分を吸って、無加水状態での微生物発酵がはじまったり、乾燥した日がつづいてもとの休眠状態にもどったり、そんなことを繰り返したかもしれない。
これは面白い。
「生」は腐敗しないか?という心配はむしろ少ない。なぜなら良性の菌類は天然の抗生物質をつくって、敵対する別の菌類が生きられないようにして、自らの食料兼住居を守るからだ。天然の抗生物質が人体に良い作用をおよぼすのが「発酵」で、悪い作用をおよぼすのが「腐敗」。
ちなみに、熟茶の茶葉は抗酸化物質も多く生成されている。
カビたプーアル茶
(タイで保存を失敗して湿気てカビた生茶と、カビなかった熟茶。この熟茶は圧延加工後だが、抗生物質が茶葉に残っているから、悪性のカビが繁殖できなかったのだと思う。)
すなわち、熟茶の長期保存における耐久性は、「生」でも「火入れ」でも、散茶でも圧延でも、あまり変わらないと考えられる。
さて、
そんなことよりも、関心のあるのは味のこと。
それが・・・孟海で飲んだときは普通に美味しいお茶だった。
言われなければ、そんなに特別感はない。
孟海県のプーアル茶の茶商
孟海県のプーアル茶の茶商
清潔な味と、気持ち良い喉越し。原料の古茶樹の育ちの良さが現れている。2008年のわりには陳化した風味があり、1990年代の熟茶に似ていると思った。
一枚買ってきて自宅で再度試飲。
割ってみる。
布朗大樹熟茶磚2014年プーアル茶
布朗大樹熟茶磚2014年プーアル茶
布朗大樹熟茶磚2014年プーアル茶
等級の篩分けはされていない様子。それどころか、粉になった茶葉を払い落とすための篩がけもされていない様子。老茶頭のような粒状のカタマリもあれば、まだ緑っぽい色を残した茶葉もある。新芽・若葉もあれば成長した老叶子も茎もある。白露(白い粉を吹いたような成分の結晶)もある。
布朗大樹熟茶磚2014年プーアル茶
色の発酵ムラがあるのは、おそらく散茶の保存中に袋の中央部分の茶葉が発熱して変化をすすめたもの。黒く焦げたような色がそれにあたる。
まだ圧延してから間もない(数ヶ月以内)せいか、茶湯の色は濁りがある。しかし、これは1年も経てば澄んでくるだろう。問題ではない。
布朗大樹熟茶磚2014年プーアル茶
布朗大樹熟茶磚2014年プーアル茶
布朗大樹熟茶磚2014年プーアル茶
見かけによらず味は澄んでいる。
甘い。
舌に残らないスッキリした味わいなのに、濃厚に感じるのは、密度の濃い水質による滑らかな舌触り、まろやかな味わいのため。
ほんのり棗香の香りは、孟海県の熟茶というよりは、かつての昆明茶廠の熟茶の風格。
しかし・・・
布朗大樹熟茶磚2014年プーアル茶
布朗大樹熟茶磚2014年プーアル茶
ホコリが浮いたり、黒い粉が沈んだりするのは、篩分けの不十分な仕事のせい。惜しいと思う。たとえこれが発酵のときにできたものだとしても、もう少しキレイにしてほしい。
葉底
いろんなカタチいろんな色の葉底もまた昆明茶廠の熟茶を思い出すが、故意に混ぜたような感じがするのはダメ。
というわけで、残念ながらこのお茶は不採用。
今後の参考のために、サンプルとして手元に置くことにした。ときどき飲んで、散茶での長期保存の効果を探してみる。

ひとりごと:
どうしてもこのお茶を入手したいと思われる方は、お手数ですがメールにてお問い合わせ下さい。
と書いていましたが、申し訳ございません。やっぱりやめておきます。「生」のサンプルはいずれ適切なのを出品できるようにしたいと思います。

倚邦古樹青餅2014年・秋天 その2.

製造 : 2014年10月28日
茶葉 : 雲南省西双版納州孟臘県象明倚邦山小葉種古樹
茶廠 : 易武山の工房
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 餅茶
保存 : 西双版納 紙包密封
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 小さめの蓋碗
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶

お茶の感想:
前回の評価のやや低かったこのお茶。
『倚邦古樹青餅2014年・秋天』(卸売部に出品予定)
今回の評価は高い。
湯を注いだとたん部屋いっぱいに倚邦の森が広がる。
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
ふくんだ口からも香気が溢れだす。
息を吸うごとに香りが肺へ、茶気が体の奥へ、もっと奥へと沁み入る。
水質の舌触りには秋のザラつきがあるものの、それはむしろ爽やかな質感。早春のムッとするほど強い香気と密度の濃いヌルっとした水質に、ちょっと疲れを感じる40代の枯れた味覚には、どこかホッとするものがある。
はじめに甘く口をやわらげて、一瞬で現れて消える苦味があって、3杯か4杯めかに舌の真ん中あたりをシワシワ刺激する渋味が残り、長い余韻がつづく。この渋味には評価が分かれそうだ。
秋茶の価格は春ほど上がらないから、万人ウケではないということだろう。
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年・秋天
森の古茶樹の透明な味。汚れた旨味や苦味は一切無い澄み切った水。
年に2度しか茶摘みできない国有林の森の茶樹。その優れた素質が秋の味の魅力を力強くアピールしてくれる。
なぜ前回の評価が低かったかというと、つくりたてで安定しなかったからだと思う。とくに香りが安定しない。香りの成分は湿度や温度に影響されやすいらしい。
圧延加工前の晒青毛茶は、パリパリに乾燥したように見えても、まだ熱がこもっていたり、たとえ熱が下がったように見えても、今度はまた空気中の湿気を吸い戻したり(茶葉は呼吸する)、そんなことを何度か繰り返しながら、しっかり乾いた状態になる。だだ、そこまでに4日か5日はかかるが、晒青毛茶を試飲したのは出来てから2日目くらいだった。
さらに、その後に圧延加工して、乾燥に2日かかり、安定するのにさらに数日かかる。
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
この間の試飲では評価を誤りやすい。
とくにこのお茶は香りが主役だから、慎重にする必要があったと思う。
茶葉の内部のミクロの構造をつかさどる繊維は、茶葉がまだ生きて光合成をしているときに、大事な水をカンタンには逃さないような仕組みにできていて、これを完全に乾燥させるのは容易でない。
例えば、殺青・揉捻後の茶葉(まだ水分をたくさん持っている)を干して乾かすのにはまる1日かかる。およそ9時間はカンカン照りの太陽に当ててやっと完全に乾くが、その横で、例えば水滴のしたたる濡れた雑巾を干したら2時間でパリパリになるだろう。
鮮葉の重量は製茶後に5分の1から4分の1に減る。それだけの水をしっかりたたえて逃さない構造になっている。この性質があるからこそ、製茶中に微妙な成分変化(例えば軽発酵)を促したりして、お茶のお茶たる風味を形成するのだけれど・・・。
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
そして、この性質があるからこそ、お茶を淹れる技術について、水の質について、湯の温度について、注ぎ方について、茶器の特性についてなどなど、考えさせられるのだな。
プーアール茶はさらに長期熟成という変化が、これから始まる。
茶葉の繊維は気の遠くなるほどゆっくりなスピードでじわじわ朽ちてゆく。ときどき湿気を吸って伸びたり、また吐いて縮んだり。密封された茶缶の中のわずかな湿度や温度や気圧の変化で茶葉は静かな呼吸をして、なんらかの成分を結合させたり、分解させたり。
枯れ葉に向かって確実な歩みをはじめるのだ。

ひとりごと:
餅茶の茶葉と茶葉の結束が、何年もかけてわずかにほぐれてゆくことで、それは見える。
数年後には崩すときの手の感触が変わっている。
やっぱり長期熟成は餅茶が面白いよな。
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶
倚邦古樹青餅2014年・秋天プーアル茶

章朗古樹秋天散茶2014年 その1.

製造 : 2014年11月
茶葉 : 雲南省西双版納州孟海県巴達山章朗寨古茶樹
茶廠 : 巴達山製茶農家
工程 : 生茶のプーアル茶
形状 : 散茶
保存 : 西双版納 密封
茶水 : 西双版納のミネラルウォーター
茶器 : 大きめの蓋碗
巴達山
巴達山
巴達山
(左の山頂の森に章朗寨の古樹。遠くの山はミャンマーの山)

お茶の感想:
巴達山へ行ってきた。
西双版納はメコン川を境に、東の孟臘県と、西の孟海県は、空気が違う。気候が違う。
孟臘県を代表する易武山の空気はしっとりしていて、孟海県の巴達山の空気はさらっとしている。
海抜1800メートルを超える巴達山の澄んだ空気。紫外線の強い光は刺すように眩しく、青い空に白い月がくっきり見える。ミャンマーから続く大きな谷を渡る風はいつもちょっと冷たくて、自然環境の厳しさを感じさせる。
ここで育つ茶葉だから、味もちょっと違う。
2014年の秋は、例年よりも雨が多く、気温の下がるのが2週間ほど遅れて、旬の味がノッたのを探すのが難しかった。今年最後のタイミングと言える11月10日に採取された晒青毛茶。
巴達山章朗寨の古茶樹のお茶。
+【巴達山章朗寨古茶樹 写真】
章朗古樹秋天散茶2014年プーアル茶
2キロしかない。
圧餅しないで散茶のまま卸売部に出品しようと思う。
巴達山の生茶は、スッと一本の線が通る感じ。
同じ孟海県の老班章の「先苦・後甜」のような時間軸の展開も少ない。
複雑なところがなく、直線的な美しさ。
森の中の古茶樹ほど旨味が少なく、味覚として分かりにくい滋味や刺激にその本領が発揮される。
古茶樹のお茶をはじめて飲む人には、「気持ち良いと感じるか?」、「清潔感を感じるか?」と、味そのものよりも、その表れ方や消え方、口に感じる刺激の移ろいに注目してもらう。
章朗古樹秋天散茶2014年プーアル茶
章朗古樹秋天散茶2014年プーアル茶
章朗古樹秋天散茶2014年プーアル茶
このお茶『章朗古樹秋天散茶2014年』は、酸味が清々しくて、甘味・苦味・渋味すべてがサッと消える。全体的に軽い印象。一煎・二煎・三煎と、煎を重ねるうちに少しずつ甘味が増してきて、口の中に留まらせておきたい時間が長くなる。湯を足しては飲んで、繰り返すうちに何煎めなのかを忘れる。
炭酸水の刺激に似たピリピリだけが口にしばらく残って消える。
そして、印象も消える。
美味しいお茶だったとは思うけれど、どんな味だったのかほとんど覚えていない。
次に飲んだ時に、「ああコレ」と思い出す。
巴達山の空気と同じでさらっとしているのだ。
巴達山

ひとりごと:
巴達山の古茶樹は、ほんの20年ほど前までは生茶でもないし熟茶でもない。いわゆるプーアール茶にはなっていなかった。別のタイプの緑茶か黒茶か、ときには紅茶も。いずれにしても安い大衆茶の原料だった。
そうすると、昔の人は大衆茶にしてはずいぶん上等な味のお茶を飲んでいたことになる。
昔の人の味覚を対象にしたお茶づくり。
つまり、そういうこと。


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